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Gプレスインタビュー

2013.December | vol.124

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先輩たちのつくってきたものと、
僕たちがつくっていかなくてはならないものと。

株式会社TBSホールディングス
次世代ビジネス企画室・プロデューサー

中島 啓介さん

なかじま・けいすけ
番組プロデューサー
2009年の入局後、バラエティ番組のADを経て2012年に次世代ビジネス企画室へ異動。以降「リアル脱出ゲームTV」「ジンロリアン~人狼~」などを企画・プロデュース。セカンドスクリーンとテレビとを連動させた新たなテレビ体験の開発を目指す。

 『テレビ番組をつくる人』若手テレビマンへのインタビューシリーズ。前回の日テレ古立ディレクターに続く今回は、TBSの中島プロデューサー。次世代ビジネス企画室という部署に所属しながら、『リアル脱出ゲームTV』という今までにない新しいスキームの番組を制作した、いま注目株の若手テレビマンにお話をうかがってみました。

-次世代ビジネス企画室という、一見、制作とは違う仕事をミッションとする部署に所属している中島さんが、『リアル脱出ゲームTV』という番組を手がけることになった経緯を教えていただけますか。

 いろいろな偶然が重なった結果です。もともとバラエティの制作に所属していたのですが、新しいことをやりたいという私自身の希望もあり、去年、次世代ビジネス企画室に配属されることになったのですが、ちょうどその頃、TBS全体で、デジタルを駆使した新しい番組を作ってみようという機運が高まっていました。そこで去年の夏、『リアル脱出ゲームTV』の企画を出したところ、わりと話がとんとんと進み、やってみようということになりました。そもそも、なぜこの企画を思いついたかといいますと、自分が『リアル脱出ゲーム』のイベントに参加したとき、「お!これは番組にしたら面白いんじゃないか」って思ったんです。

-イベントとネットとテレビを相乗的に繋げていくという、おそらく今までの番組づくりの考え方にはなかった発想ですよね。それでも、企画を提案してから割とトントンと進んだということは、中島さんの提案に対する理解が比較的スムーズに得られたということなのでしょうか。

 いいえ、違います。みんな、「よくわからない。けど、とりあえずやってみよう」という感じでした。はたしてこういう番組が、数字がとれるのかとれないのか、まったくわからない。でも、もしかしたらとれるかもしれない。しかも、それが若い社員の手がけた番組ということになるんだったら、尚更にいいのだから、とにかくやってみよう……と。制作だけではなく、編成もそういう考え方をしていただきまして、今年の元旦の深夜という枠で放映することになりました。深夜とはいえ、おめでたいお正月に、まったくおめでたくない(テロリストが爆弾を仕掛けるという笑)番組を流すわけですから、チャレンジングなことだったにちがいありません。そこは、TBSという局の社風があったからこそ実現できた番組なのだと思っています。

-社内会議、なかなか大変だったんじゃないですか。

 はい。感覚を共有するのが、たいへんでしたね。おそらく、最後まで、「中島はよくわからない奴」と思われていたと思います(笑)。少し話はそれますが、僕らがテレビ番組を検索するとき、Gガイド等の電子番組表を使うのが主流じゃないですか。でも、この間知ったのですが、いまどきの中高学生って、ニコ生(ニコニコ生放送)の番組表をまず検索して、先にニコ生の番組からチェックするらしいんです。また、先日アメリカに行ってきたんですが、アメリカの小学生は、もはやテレビ番組は決まった時間に決まった番組を見るものという感覚を持っていません。僕からみれば、彼ら彼女らの感覚は理解不能の域にあるわけですが、同じくらいの理解不能な感覚を、先輩たちは自分に対して抱いているのかもしれないなぁと思いました。

-先輩たちとそういう「わかりあえない関係」のなかで、中島さんはどうやって進めていったのですか。

 番組制作会議ではそうそうたる先輩たちに囲まれましたが、有り難いことに先輩方は僕の声に、まず耳を傾けてくださいました。そういう環境を先輩方がつくってくださったからこそ、臆せず「いや、若者的にはですね……」と自分の主張をすることができました。結果的に、「わかりあえない」ではなく、お互いに「わかり合おう」とするチームが編成されたおかげで、番組を着地させていくことができました。温かい目で話を聞いてくださった先輩方のおかげです。

-今まで実績をつくってきたテレビ局の先輩たちは、迫力のある人たちが多いですから、そこを「いや、若者的には」と切り返していくのは、実際はなかなか勇気のいることだと思います。でも、そうやって中島さんのような果敢な若手がどんどん出てこないと、テレビ局も世代交代していきませんよね。

 先輩たちがつくってきたことは、すごいと思います。純粋に尊敬します。でも、僕らの世代は、先輩たちとはまったく違う環境、前提の中でテレビ番組をつくっていかなくてはいけません。HUTがどんどん下がっている中で、どうやって稼ぎつづけていけばいいのか。従来どおり視聴率を追いかけていって、未来はあるのか。スポットという概念自体、いずれなくなってしまうかもしれない……等々、いろいろ考えます。もはやテレビ黄金時代をつくってきた先輩たちがつくってきてくださったものに乗っかっていくだけでは未来は拓けない状況にきています。僕らは僕らの力で未来を切り拓いていかなくてはいけません。だから、やっぱり「いや、若者的には…」と主張すべきだと思うんです。そういうぶつかり合いの中で、お互いの良い部分を落とし込むことができれば、新しいものが生まれ、結果としてよい世代交代が行われていくのではないでしょうか。

-今年9月に発刊した弊社の編著『テレビ番組をつくる人』(PHPパブリッシング)の中で、TBSの合田隆信さんが、『リアル脱出ゲームTV』のことを褒めていましたよね。あの番組は、ソーシャルメディアを活用して成功した番組だけれども、「ソーシャルメディアを活用した番組をつくろう」としたのではなく、「面白い番組をつくろう」がベースにあったからこそ成功したのだ、と。

 合田さんにそう言っていただけたのは、嬉しいです。実際、そのとおりなので。僕たちが番組をつくる際の第一条件は、まず「セカンドスクリーン連動に参加しない人も」楽しむことができる番組をつくることです。その上で、連動を楽しむ特に「若い世代」にも見てもらえるようなコンテンツがつくれればいいなと。そうすれば、その番組をきっかけに、いろいろな事が波及していき、全体として「若者が盛り上がればいい」わけで。若者が盛り上がれば、スポンサーもおのずとついてくると思っています。ただし、番組づくりの根本は、とにかく「誰から見ても面白いもの」をつくることだと思います。

-いま、テレビ離れが進んでいる若者を、テレビをきっかけに盛り上げるというのは、かなり難しいことですよね。

 大切なのは、「没入感」なのだと思っています。どうすれば若者を「のめり込ませる」ことができるか、という。若者がテレビを見なくなったのは、テレビがつまらなくなったわけではなく、テレビに「没頭」することをしなくなったということなのだと思います。だから、「のめり込む」仕掛けをつくってあげればいいんです。やはり、メディアとしてのテレビの力は絶大ですから、何かに没入していく「きっかけ」としてテレビという箱を最大利用すればよいわけでして。『リアル脱出ゲームTV』は、そういうつくりになっていますし、今月のクリスマスイヴに放映予定の『マッチング・ラブ』という番組も、そういう仕掛けを意図してつくりました。『マッチング・ラブ』は、理想の相手を探し求める恋愛ドラマなのですが、その番組放映中に、視聴者同士が理想のカップルとして結ばれるかもしれない・・・・・・そんなドラマです。ドラマの出来事を、単なるテレビというフィクションの出来事で完結させるのではなく、リアルな世界でも疑似体験が生みだしていくという仕掛けをつくることで、視聴者を「没頭」させていくことができるかもしれない。そんなことを考えながら、番組をつくっています。

-本日は、お忙しいなか興味深いお話をいただき、ありがとうございました。

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