• シェイク!Vol.8 面白いアニメとは何か考える 2nd(4)<br>那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.8 面白いアニメとは何か考える 2nd(4)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.8「面白いアニメとは何か考える 2nd」のシリーズ4回目、この回では2017年冬アニメについて、出演者3名それぞれのオススメや意外と予想に反して盛り上がったトピックスについての話題が中心となっています。

何を観る!? 2017年冬アニメ

森永

さてここまで2016年秋のアニメについて話してきましたが、ここからは今クール、2017年冬アニメについての話題に移ろうと思います話していこうと思います。まだ全話放送が終わっていないものありますが、3人が観たアニメをリストアップしてきました。

片岡さんはめっちゃ観ていますが全部表示すると大変なので、一部表示にしました。片岡さんは視聴作品リストの中をさらにS,A,B,Cとランク分けされていたので、その中からAランク以上に絞っています。

まず3人が共通して観ていて人気でもあったアニメとして『幼女戦記』があります。タイトルだけ見ると萌え系のアニメだと捉えてしまいますが実は違うんですよね。

『幼女戦記』公式サイト

片岡

実は、ドライな上昇志向のサラリーマンが第一次世界大戦時下のドイツ的な時代の幼女の超能力使いにされちゃったという設定の作品なんです。見た目は幼女ですが中身はおっさんなんですね。そのギャップが面白いから観るもので、幼女がカワイイから観ようと思っても、醜悪に描かれているので注意です。

森永

舞台は第一次世界大戦のドイツと思しき時代、幼女の中に入ったおっさんは第一次世界大戦・第二次世界大戦の知識を持った状態なので、その知識を軍隊の中でどう使ってのし上がったり、重宝がられてむしろ利用されたりする姿を楽しむ作品ですね。

片岡

しかも、幼女(=おっさん)は早く最前線から遠ざかれるように、どういう昇進をすればよいかどういう方策を取ればいいのか考えてうまく立ち回ろうとするのですが、それがすべて裏目に出てしまう。

森永

中間管理職の悲哀みたいなシーンが何回も描かれます。

那須

予想外の評価を受けて出世していってしまうんですよね。

片岡

サラリーマンの目線で観ると楽しい作品ですね。

森永

最初はタイトルで萌え系の作品かと思ってチェックしてなかった人が多かった作品だと思いますが、後から気付いた人たちがいて、だんだん人気が出てきました。あと3人が共通して挙げて、かつ人気の作品は『クズの本懐』ですね。

『クズの本懐』オフィシャルサイト

那須

『クズの本懐』にはかなりハマっています。元の原作マンガを描いている横槍メンゴさんは女性で、とてもかわいく女の子を描ける方ですが、実はこの方、成人誌出身でそこから商業誌にデビューした方なんですね。『君の名は。』の後、どんな潮流がアニメで出て来るのかと思ったら、そちらのジャンルだったのか!と驚いたりもしました(笑)。近年、R18指定の作品も手掛けた経歴のある方々の活躍って、ホント増えましたよね。例えば、『君の名は。』の新海誠さんも18禁ゲームのOPを過去に制作していましたし、『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄さんも18禁ゲームシナリオを執筆されていました。『響け!ユーフォニアム2』等を製作した京都アニメーションも18禁ゲーム原作のアニメ化をした時期もあったのです。そういう文脈上にあるクリエーターがメジャータイトルでヒットしたということも、新しい流れの出現だと思うんです。

森永

『クズの本懐』はフジテレビのノイタミナ枠で放送されていたのですが、すさまじくエロくてですね。私の感覚からすれば、おそらく男性の方は奥さんと一緒に観られないと思います(笑)

片岡

私は妻と一緒に観ていますが非常に良いですね。演出が素晴らしいです。マンガのカット割りみたいなことを自然にアニメの中で実現している。マンガを読み進めていくような感覚とアニメらしさと、さらに色彩感・手作り感がすごく出ています。例えば、絵の線も細かくて、髪の毛もべた塗の部分に付け足しで細い線がたくさん描かれている。かなりマンガっぽい絵柄を意識しています。表現としても新しいですね。

那須

特に3話までの心理描写がとても丁寧でしたね。

片岡

名作の部類ですね。

森永

舞台は高校で、一応青春ものということになっているけれども物語のトーンとしては『不機嫌な果実』とか昼ドラとか、ドロドロしています。そこでさらに絵がかわいくてエロいんです。片隅 キスやベッドシーンもあそこまでやっていいのか、という内容でしたが、それが逆にシリアスに伝わってくる。だからと言って重たいわけではなく、演出の妙ですっと観ることができる。本当にさりげなく凄い演出だなと。感心することしきりです。

那須

個人的には劇場版になって欲しいですね、今回のTVシリーズでは若干、作画で残念なところがありましたから。劇場版のクオリティにまとめなおすとまたヒットすると思います。

片岡

『甲鉄城のカバネリ』※がまさにそうでしたね。再編集と新作カットを足した劇場版の方がはるかに出来が良かった。劇場版は傑作でした。

※『甲鉄城のカバネリ』。 2016年4月より6月までフジテレビ『ノイタミナ』枠にて放送された。

森永

先ほどの2016年秋アニメ分析の話で、アニメにも人間ドラマ系とかバラエティ系とかありますよねみたいな話をしましたが、新たなジャンルの作品として『鬼平』があると思います。時代劇ジャンルですね。水戸黄門みたいな扱いで、8時台・9時台に時代劇がアニメになっていてもがおかしくないと思わせてくれるようなクオリティの本格時代劇ドラマでした。

『鬼平』公式サイト

那須

私は時代劇の調達も担当しています。アニメ「鬼平」で驚いたのは、元の脚本はオリジナルである池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』と全く同じなんです。実写ドラマ(時代劇)シリーズでも松本白鸚(八代目松本幸四郎)さんや丹波哲郎さん、萬屋錦之介さん、二代目中村吉右衛門さんを主演にして、何度も制作・放送されています。しかも同じお話しでも2時間ドラマの時もあれば1時間ドラマの時もあるように、何度も作り直されている。そういうまったく古びない脚本を今回は30分アニメに仕立て直しているんですね。脚本の良さをキレイに抽出して見やすくまとめているというところに、新しいファンが増える可能性を感じました。8時台・9時台(ゴールデンタイム)というアニメとしては新しい時間帯に放送できる可能性もありそうだと思います。

森永

いまは、アニメの放送時間帯が子供向けが夕方か早朝、大人向けが深夜という時間帯に限られている状況ですが、ゴールデンタイムで放送しても「面白い」と言って受け止められるんじゃないかと思わせる、見ごたえのあるアニメ作品が増えてきています。『鬼平』はそのための嚆矢としていい例ですよね。

片岡

本当にいい作品だと思います。毎回ジーンとくる脚本の素晴らしさもありますし、個人的にはエンディングの雪のシーンが好きです。あれを観るだけでも「観て良かったな」と思います。最初の期待値は高くなかったのですが、いまでは毎回観るのが楽しみなアニメです。

森永

アニメ制作者さんがおっしゃっていたのですが、「実写ドラマでは、恥ずかし過ぎて絶対言えないようなクサいセリフや、ありえないようなとんでもない展開も、アニメならではの記号性の高さが、リアルの生々しさを払拭してくれる分、逆にこっぱずかしい展開をふんだんに入れることができる」そうなんですよ。それってつまり、アニメは実写よりドラマチックにできるっていうことなんですよね。『鬼平』はアニメの文脈とは違う人にもオススメできる作品だと思います。絵柄も時代劇という言葉から想像されるような古めかしいものではなく、むしろスタイリッシュでかっこいい。しかも、スタイリッシュでイケメンに描きすぎると、ともすれば腐女子系の絵柄に行きがちで、拒否感を抱いてしまう男性も出て来るのですが、『鬼平』はそういう絵柄にはなっていない。

片岡

時代劇的な良さを残して年配の方にも観られる絵なんだけれども、いまの若い人たちが時代劇と意識せずにアニメとして楽しめるものにもなっています。

森永

すごいオシャレな原哲夫みたいな感じですね(笑)次に話したいのが『けものフレンズ』についてです。あの現状は何だったのか? 片岡さんは観なかったんでしたっけ?

片岡

2話までは観ました。

森永

私は1話を観て最初の10分くらいで「こ、これは無理だ、これ以上続けて見られない……」と1話すら見終わらない状態で観るのをやめてしまいました。そこから、えーと時期でいうと2月6日ですかね、その2月6日に『けものフレンズ』がやばいぞ、と書いてあるブログ記事が投稿されて、それに呼応するようにそうだそうだというアニメファンが湧き出てきて、うーんこれはちょっと見たほうがいいかもしれないぞと考え直して観ることにしたんです。アニメ好きの間では有名な「まどマギ事件」というのがあります。多くの人が1話で観なくなった、下手すると1話すら見ないままの人も多かった『魔法少女まどか☆マギカ』が3話からあたりから評価が急上昇して、その勢いのままものすごいアニメになったというものです。それ以来、「自分が面白いアニメをもしかしたら見落としているのではないか」とアニメ好きは常に気にするようになって、まあ私のそのパターンでした、まんまと『けものフレンズ』も観続けることにしたんですね。

でも、白状しますと話題になっている最中も『けものフレンズ』の最終話は、『魔法少女まどか☆マギカ』みたいにすごい展開にならずに、最後まで「楽しいー」って言って終わると思っていました。伏線とか、深い世界観とか、ないない、って(笑)。でも、実際はそうじゃなかった。

片岡

しかも、続編決定という(笑)

森永

放送期間中のツイートの男女比を見てみましょう。データセクションさんの技術を使っているのでランダムサンプリングの10%量のグラフです。ざっくり見ていただければ良いと思います。

「けものフレンズ現象」と呼ばれるほど流行っていたいましたが、このデータを観てみると実は女性はそんなに盛り上がっていないんですね。これは私は結構納得性が高くて、自分の周りでけものフレンズに盛り上がっていたのは男性ばっかりだったのは気のせいじゃなかったんだなーと思いました。『幼女戦記』と比べると分かりやすいのですが、『幼女戦記』では男性が多いとはいえ全体の3分の1程度のツイートが女性なのに対して、『けものフレンズ』では4分の1程度。この差は大きいのかなと。ちなみに『ACCA13区監察課』はオシャレアニメなので圧倒的に女性が観ていますね。

『ACCA13区監察課』公式サイト

このデータのほかにも放送期間中のネット上での盛り上がりを見ていると「けものフレンズ現象」は、男性ばかりが盛り上がっています。しかもどちらかというと無理やり盛り上げていったような印象を持っています。那須さんはどう思われますか?

那須

『けものフレンズ』はフル3DCGのアニメなのですが、その昔、日テレで放送されていた『てさぐれ!部活もの』と同じ手法なんです。この手法だとアニメファンがパッと見たときに親しみを持ちやすい絵柄ではなくなるんですね。5頭身で、すごくかわいく描かれているわけでもないし、ディフォルメされているわけでもない。3DCGで可愛く描こうとしたときの落としどころで5頭身のああいった絵柄になっているんです。それは『てさぐれ!部活もの』のときも同じでした。『けものフレンズ』の凄いところは、ひとつの『けものフレンズ』というジャンルを成立させたところです。アニメのほかにマンガやゲームは違う絵柄でも成立していますしね。「この絵柄のこのキャラクターが好き」と思うのが一般的だと思うのですが、そうではない。ひとつのカテゴリーとして『けものフレンズ』があって、その表現のひとつとしてアニメやマンガやゲームがあるという点が受け入れられたのが面白いです。そして、そういう楽しみ方をするのは女性よりも男性なのかなと思います。

森永

Twitter上での『けものフレンズ』の盛り上がりはすごいものがあって、『魔法少女まどかマギカ』のときと同じように、1話切りをすると大変な目にあうぞという反省をもう一度してしまいました。

片岡

たしか6話か7話で、それまでのツイート数がトップだった『ガヴリールドロップアウト』を抜いて、以降ずっと1位のツイート数でしたね。最後の11話はニコニコ生放送がダウンして事件になっていました。「けものフレンズ現象」のひとつの捉え方としては「まどマギ事件」や「ガルパン事件」のように1話で切っちゃって後悔したトラウマがあるアニメ好きが大ヒットの可能性を初期のころに感じていたということがあります。

もう一つは「みんなで盛り上げて俺たちがヒットさせるんだ」みたいな仲間意識がネット上で働いたのかなと思っています。ここまで来たらみんなで盛り上げようという、ネット上でのイベントになっていきましたよね。「バルス祭り」※のようなものです。「俺たちが時代を変えてやる」というようなネット民たちによる応援のレールに上手く乗ったところがあったと思います。

※ スタジオジブリアニメ『天空の城ラピュタ』の作中で使用される言葉。地上波放送時に作中の主人公が「バルス」と言った瞬間、ツイッター上で大量に「バルス」と書き込まれた。

森永

明らかに展開が決まっていると分かっているにもかかわらず、ハマっているキャラクターに対してTwitter上で「頑張れ!」とつぶやいたりするなど、応援上映のような雰囲気が出るアニメもありますよね。みんなで一緒にTwitter実況を介して観るのが楽しいという視聴スタイルのアニメファンが一定数いるのではないかとも思いますね。

片岡

逆の言い方をすると、Twitterファンという集合がいて、Twitterファンが題材にしやすいようなアニメがTwitter上で盛り上がるということですね。先ほどお見せした3率のデータなどからもそれは見て取れることでもあります。ということは、Twitter=アニメファンのすべてではないですが、Twitter向けにTwitterコミュニティが喜ぶコンテンツがあるのではないか、という考え方もできると思っています。もちろんTwitterコミュニティと一口に言っても男女差などもありますし一概には言えませんが、Twitter的なコミュニティがいくつか存在するとは思います。

森永

先ほどの片岡さんのデータで言うと、固定ファンタイプの番組は割と上位に行きがちだと思います。ドラマでも『ドクターX ~外科医・大門未知子~』や『相棒』など固定ファンがいるドラマはTwitterの上がり下がり関係なく数字が取れるということがありまして、アニメでも同じようなことは起きるのではないかと思いますね。

片岡

「フレンズ」がバズワードになっていますよね。自分たちも何かあると『けものフレンズ』と関係ないのにとりあえず「フレンズ」と言うような、合言葉になっている面はありますね。「君は○○なフレンズなんだね!」という言葉がコミュニティにおけるジャーゴンになっているように思います。

森永

あとテンションが上がることがあったらとりあえず「たーのしー!」って言うとかもありますね(笑)

片岡

一体感・連帯感ですよね。『東のエデン』の終盤でも似たような場面があります。「ネット民の力を舐めるなよ!」というような世界ですね。

今期の注目アニメの話へつづく

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