• シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(2)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(2)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2ndの連載2回目は、伊藤Pの発想法を掘り下げる「スタッフが力を発揮する場のつくりかた」から面白く企画する方法について紐解いていく。

伊藤Pの発想法を掘り下げる「スタッフが力を発揮する場のつくりかた」

佐藤

聞いていると面白い番組っていろいろ作れそうな気がしてくるんですよね。だけど、いざ自分が番組を考える側に立ったら……。ニュースを見て、池抜いたら面白いなって企画書を書いて通して、放送されて、で、結果的にスベったら大変なわけで。これで行こうって決めるのは、センスなんですか? 経験?

米光

ぼくが池の水を抜く企画書を作っても、翌朝読み直したら捨てそうだもん。深夜のテンションで書いちゃったわー無理無理、みたいな。

佐藤

ネット記事の場合、バズった成功例に倣おうとする人が多いんです。失敗が怖いからある程度の予防線を張る。たくさんのお金をもらってやる仕事なら余計にそうなる。

米光

うんうん。

佐藤

伊藤Pはそこが吹っ切れている。

米光

前例ないですよね、池の水を抜く番組。

伊藤

池の水を抜くだけの番組はないですね。ぼくは他人に積極的にアイデアを話して、反応を探るようにしてますね。

米光

ぼくもどんどん話すタイプ。目の前にいる人からリアクションをもらうのって大きいですよね。「わかんない。どういうこと?」って言われて、違う言い方を探したりする。その人向けに説明しようとして、そこでアイデアが膨らんで新しいものになる。

伊藤

最初に池の水を抜く企画書を出したときは、会社に無謀だと言われました。ほんとにやめてくれって。

米光

やめてくれって言われて、くじけなかった?。

伊藤

これだけの人がやめろって言うのは、絶対なにかあると思って。

米光

んーどういうこと?

伊藤

ほんとにえらい人が「やめさせろ」って言ってきたから絶対やってやるって思った。心配するということは、逆に気になってるってことだろうし。

米光

なるほど。

伊藤

でもそこで、タイトルをこうしろとか、他のネタも入れろとか、言うことを聞いているとふつうのものになってしまう。当初はゲストを入れろと言われたんですけど、「入れません」と。反応の逆をやりました。性格が悪いのかもしれないですけど、怒られる前提で行きますね。とくに上司には。

米光

貫けるかどうかって、大きなポイントですね。ゲスト入れろ、そのほうが安全だって言われたら、ふつうなら揺れちゃうけど。

伊藤

引き算型かもしれないです。何もないようにしていっちゃう。もともとテレビ東京ってそういうところがあって、予算がないからタレントを呼ぶのを諦める、みたいな事情もあるんですけど、ぼくの場合、もっともっと削っていっちゃう。

米光

池の水を抜くだけでもつのかなあという不安はないんですか?

伊藤

不安はあったのでロンブーの淳やココリコ田中に行ってもらいました。「ちゃんと尺を作ってくださいね」と。どうショーとして見せるかっていうのは演出の範疇だと思います。ぼくは失敗してもいいやってどこか思ってるし、わりかし暴れがちですね。

米光

社内で伊藤Pのキャラが暴れん坊キャラになっている。

伊藤

勝手にみなさんそう思ってるみたいですねー。

米光

いやいや勝手じゃないですよ。出来てる番組が、暴れん坊としか思えない番組じゃないですか。

伊藤

いまちょっとぼく怒られてます?(笑)。

米光

怒られてないない(笑)。そのうまい位置に来る秘訣が知りたいんです。まあでも、築きあげてきたんですもんね。蓄積ですよね。

佐藤

テレビ全体のなかで見ると、伊藤Pのような尖った番組って少ないなという印象はあります。規制が厳しくなって、CMもなにかあるとすぐ潰される。

伊藤

だから、テレビ自体はもう、昔に戻ったほうがいいなーと思ってます。どんどん逆行するようには作ってますね。BSジャパンでバカリズムさんと始めた番組があって。これも引き算したんですけど。

米光

あ、見ました。「バカリズムの30分ワンカット紀行」。

伊藤

ステディカムっていう、歩いて撮ってもブレないカメラがあるんです。カメラを目線の高さにして、カメラマンに街のなかを歩いてもらって、ノーカットで撮る。いろいろ試してみたら、街がいちばん面白いっていうのがわかった。

米光

めっちゃおもろいんすよ! 映像が街を歩いてる一人称視点で。

伊藤

もやさまの場合、視聴者は第三者としてみているわけです。

米光

さまぁーずさんと街の人のやりとりを遠くで見ているかんじですよね。

伊藤

でも、ワンカット紀行は急に襲ってくるんですよ。

米光

ほんとにゲームみたいに。

伊藤

狭い路地をカメラが入っていくと、おばちゃんが突然話しかけてくる。

米光

もやさまはドラクエなんですよね。上から俯瞰していて自分のキャラクターも画面にいる。ワンカット紀行は3Dのファーストパーソン・シューティングゲーム。プレイヤーの視点とゲーム画面が一致していて、情報の出方もゲームっぽい。お店を通ると、アイコンが表示されてお店の情報がぽぽぽんって出るんです。これゲームじゃーん! って思いながら見てました。

伊藤

毎週月曜日の23時半からなので、一回見てみてください。

米光

ちょっと変な番組ですよね。映像がもう変ですもん。

伊藤

昔の手法ですけどね。お店に入ったら急にカメラに入ってきた店員さんから「どうもいらっしゃいませ」と言われるという。ディレクターが事前に行ってルートも決めています。行き当たりばったりじゃなくて、劇団である。演出を入れて街を劇団にしてるんです。

米光

露骨にやってて面白かったのが、お店の人に照明を持たせてるところ。料理がよく映るようにお店の人が照明を持ってるの。

伊藤

ふつうはブツ撮りというものがあって、きちんと照明をたいて三脚組んで料理だけを別撮りするんですよね。でも、ワンカットの30分紀行ですから、お店の人がしゃべって料理を出して、照明も持ってもらってブツ撮りも同時に済ませるという。テレビの裏側もぜんぶ見せています。

佐藤

それは面白いですね。

伊藤

またお店の人が一生懸命演技しようとしてんのがたまらない。

米光

確かに、昔のかんじはしますね。お店の人が棒読みっぽくなるかんじとか。あと、ふつうに歩いてる人もいますよね。

伊藤

いますいます。何やってんだー? って話しかけてくる人もいる。だからディレクターは、途中で映っちゃった人や絡んできた人にその場で「放送していいですか?」って許可を取ってる。お子さんが映っちゃうと、親の許可が必要です。

米光

その場に親がいなかったらどうするの? 探すの?

伊藤

探します。ダメならわからないようにモザイクをかけるしかない。

米光

人以外にも映っちゃまずいものはあります?

伊藤

スポンサー競合があるので。バカリズムさんけっこう多いんですよ。

米光

そうか。バカリズムさんの出ているCMのライバル会社のものはアウト?

伊藤

映り込みの範囲だといいんですけど、寄りで映ってるとなかなかね。スポンサーに迷惑をかけてしまうので。

佐藤

大変ですね。

伊藤

ディレクターが事前にルートをプランニングして、基本それだけなの。編集もそのワンカットで終わるんで、お金はかかってないです。

米光

そうか、編集の手間はほぼない。

伊藤

でも、見ていて大変そうに感じましたよね?

米光

うんうん。

伊藤

大変なんですよ。このワンカットに何を起こすか、作るほうが知恵を絞っています。

米光

まだ失敗はしてないんですか? けっこう仕込んでるじゃないですか。最初に出てきた街の人が、最後に再登場したりする。裏で走ってるその人が途中で転んでくじけちゃったらどうなるんだろう。最後のオチが撮れなくなっちゃう。

伊藤

失敗はありますあります。もう一度最初からやり直しっていうのは何度か。しばらくカメラマンにちょっと休んでもらってからね。ステディカムで30分撮るのは殺人的なんですって。労災対策で休憩してもらわないといけない。

佐藤

このご時世、労災はまずいですね。

伊藤

なのでいま、強そうな人をそれ専用に鍛えあげてます。

佐藤

すごいなあ。

伊藤

この番組の場合、発想のスタート地点は、池上波から旅番組がなくなりつつあることへの危惧です。

米光

なくなってるんですか?

伊藤

「いい旅・夢気分」もなくなっちゃいましたね。朝の時間帯に「朝だ!生です旅サラダ」はありますけど、ゴールデン帯でいわゆる旅番組ってほとんどやってない。もやさまもひとつの旅番組だとして、もうひとつぐらい作ってみたい気持ちがありました。「空から日本を見てみよう」が空なら、ぼくはこっちから行ってみよう。ワンカットで撮るのは、テレビマンも背筋が伸びていいかなって。

佐藤

ぼくは人の企画術を聞いて取り入れていくのが好きなんです。伊藤さんのお話を聞いていて、伊藤さんは「確実ではないけどなんかありそう」な設定を作るのが好きなんじゃないかなって思いました。

伊藤

そうですね。

佐藤

ハプニングを見込めそうな設定を考えている。

伊藤

企画のタイトルと番組の仕組みを考えて、枠だけ作っちゃうんですね。そこにタレントさんとディレクターさんを放り込んで眺めてるんです。どうやって面白くするのかなあーって。でも企画通っちゃったから、やって」って言ったらやるんだから優秀だよね。

米光

言われたほうもね、よし頑張ろうって思いますよね。

伊藤

その代わり上がってきたものに対しては文句を言わないです。

佐藤

おおー。ちょっと違うなって思っても言わない?

伊藤

ちょっと違うなって思ったら、タイミングを見て言います。「こっちのほうがいいかな」って。やっぱり、選択肢がたくさんあるなかで人が知恵を絞って何かを作り上げているのを見てるタイプですね。

米光

そうか、ねじくんの指摘でわかった気がする。枠を作ってそのなかにタレントさんを泳がせる番組はあるけど、枠のなかにディレクターやスタッフも入ってる番組って他にないですよね。

佐藤

そうかそうか。

米光

30分ワンカット紀行も、もちろんコメントを入れるバカリズムさんも大変だけど、あれを撮るカメラマンやスタッフのプレッシャーもすごいですよね。こんなことやらせがってってとこに放り込んでる。

伊藤

思ってるでしょうね(笑)。でも、みんなが自分たちのものにしてくれたときは達成感がありますね。あとは身を引くだけ。

佐藤

プロデューサーですね。

伊藤

やっといていなくなるっていう。

米光

そこのいなくなりかたも含めての居方って大事ですよね。

客席からのお題「変なことを仕事にする方法」へつづく

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