• シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(4)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2nd(4)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.9 どうしたら作れる、面白い企画 2ndの連載4回目は、続々と寄せられる質問に三人それぞれの視点による答えが飛び出す展開になった。

客席から質問が続々 「バズらせる方法」「嫌いな人の対処法」「失敗したときのリカバー方法」

観客B

自分が面白いと思ったものを作ったあと、どうしたらハズらせることができますか? どこに放ったらいいんでしょう。

米光

それおれも聞きたいわ。

佐藤

ぼくも聞きたいです(笑)。ネットでウケやすい「型」はすでにたくさんあるけど、ぼくはそこからは作らないです。型から作ると似ちゃうんですよ。それこそ可愛い猫使って、とか、そういうのつまんないですよね。一回自分が面白いと思うものをやってみて、そこから方法論を少しだけ参考にして調整していくのがいいと思います。たとえばFacebookやツイッターでシェアするときに出てくるアイキャッチ画像とタイトルはどう設定するのがいいかとか模索してみる。でもそれでもスベってます。バズらせかたはあんまり方程式化しないほうがいい。失敗した方法を悪い方法だと定義すると金脈を逃す可能性があります。

伊藤

バズらせかたはわからないっていうことですね。

佐藤

わかんない。

伊藤

やっぱり数が大事ですよ。

佐藤

数は大事ですねー。いろんな意味で。

観客B

仕事じゃない個人的なものをバズらせようとしたときに、出せる場所が個人のFacebookしかないんです。シェアしてもらえるようにがんばるしかないですかね。

佐藤

基本そうですね。ぼくはメディアにも投げますけどね。ネットメディアとかに問い合わせフォームがあるじゃないですか。そこに、こんなの作ったんですけどって、投げますね。

米光

ねじくんはそのへんをちゃんとやるよね。ねじくんも何度か受賞してるけど、ぼくが去年まで審査員をやってた文化庁メディア芸術祭って自分で応募するんだよね。なのでバズらせたいやつを作品だって言って応募すればいいよ。

佐藤

ウェブはストリートファイトというか、戦いの場が明確に決まってないから、自分でそういう場をどんどん見つけていくのも手かなあ。

米光

ウェブだと個人か企業かなんて関係ないもんね。

観客B

ずっと付き合っていかないといけない仕事相手を嫌いになったときや嫌いになりそうなときに、どうされてますか?

佐藤

嫌いな人って2種類あるって思ってます。自分とぜんぜん違うタイプの嫌いなやつは、冷静に接することができる。でも、自分の嫌な部分が似ている人だと、同族嫌悪に陥って冷静でいられない。そういうのないですか?

米光

んーあるかも。

佐藤

そういう人との相性はすごく悪いので、他の人をなるべく噛ませるような座組にします。

伊藤

ぼくは嫌いなまんまですね(笑)。ただ、仕事に好き嫌いを持ち込むのはアマチュアです。たとえば会議のとき、必要だと思ったら「ぼくのこと好きじゃなくてもいいんですけど、言いたいことは言ってください」と伝えています。相手が嫌いだからなにも言わないっていうのがいちばん困るんですよね。嫌いでも会議で15分話し合って、課題が出たらあとはそれぞれわかれて詰めてもらう。嫌いなまんまのほうがストレスがかからないですね。

米光

ぼく、やな奴のこと考えるの、だいすき。なんでこんなにやなこと言うんだろうって考えて掘り下げるのが面白いです。よくドラマでやな奴だけど子供に対しては優しかった、みたいなシーンあるじゃないですか。ああいうのを勝手に想像してます。

佐藤

あの人もいいとこあるのかなあって想像してるんですか?

米光

発想法のひとつなんです。やな奴って、ぼくだけじゃなくてみんなからやな奴って思われることが多いじゃないですか。そこで、こんないいところもあるんだって気づけたり、実はこういう理由があってそんなことやってたんだって分かったら、仕事が円滑に回るし、そこからアイデアが生まれたりする。嫌いだっていうことを好きになって考えてみると案外、わかったりします。

伊藤

ちょっとやなかんじだなあと思ってた会社の人とプライベートでばったり会ったら、想定外の私服を着ていたことがあります。

米光

あるあるある。

伊藤

ドラキュラ伯爵みたいな服なんですよ(笑)。まあ見方変わりましたね。あと、嫌いになりそうだなっていうときこそ、ふつうに振るまうようにしています。ずっと無視で挨拶してこない人も会社にいるんですよ。その人の目線に入って「おはようございまーす」って声かけて。逆に嫌がらせですね(笑)。前も言いましたけど、嫌いな人はスタッフに必ず入れるようにしています。反対意見を言ってくる人をあえて置いておく。

観客C

失敗したときにどうリカバーするか教えてください。

米光

個人でやるときは、失敗してもいいやと思ってます。大勢が関わるプロジェクトのときにいつもやってるのは、7段階の目標を作ること。1段階はかんたんにできる目標。7段階目はほぼ不可能な目標。で、最終的にできなかった目標はなかったことにする(笑)。

伊藤

ここまで行ったよというところだけ覚えておくと。

米光

「BAROQUE」というゲームを作ったときは、確か2段階目に同人誌が作られる、3段階目にオンリーイベントが開かれる、4段階目にコミカライズって設定して、7段階目はヨーロッパで映画化にしたんです。4段階目までしか実現してないけど、以降はなしってことにしちゃえばオッケー。

佐藤

ぼくも近いです。目標設定を200%ぐらいの高めに設定しておくと、そこを目指すから失敗しても120%ぐらいになったりする。あとは、失敗か成功かの判定ポイントをたくさん作っておく。ウェブの広告だったら、Facebookのいいね数とか、PV数とか、メディアにこれだけ取り上げられたとか、こういうふうにブランドに寄与しました、とか、いろいろ用意しておきます。

米光

評価軸をたくさん持つってことね。

佐藤

だから、テレビの仕事はすごいなあって思うんですよね。視聴率というひとつの明確なゴールがある。

伊藤

いや、すごくないです。ほとんどね、100打席中94打席ぐらい失敗してます。ぼくの場合、目標設定はないです。視聴率が何%行ったら、なんてほとんど口にしない。失敗しても死にゃあしないって割り切ってやります。中身のクオリティや、伝えたいことがどれぐらい伝えられるかにはこだわりますけど、あとはお客さんが評価するものだから。

佐藤

死にゃあしないって割り切るから思いっきりジャンプできるってことですね。

伊藤

で、失敗したときは全力で謝りますね。たとえば朝起きて、8%取ったらいいなーと思ってたら2.8ってことがあるんですよ。ゴールデンで。ほんとにやばいやつですね。もう夢であってくれと思って二度寝するんですけど(笑)。でも、会社についたら上司のところに行って、まわりに若い後輩とかいるんですけど、大きい声で「すいませんでした!」って謝る。

佐藤

すごい……(会場内にどよめき)。
失敗したときはそれをなかったことにするのが一般的だと思うんですよ。謝るっていうのははっきりしていいですね。

米光

うん。

伊藤

若いころに市中引き回しみたいな目にあわされたことがあります。特番で2.8%だったんですね。どうしていいかわからなくて会社でちょっとまごまごしてたら、上司が大声で「はーい、こいつ伊藤って言いまーす。こいつが最低の数字出しました。何%だっけ?」と。「はい、2.8です」「声がちっちゃーい」って制作のフロアに百何十人いる状態で晒し者ですよ。さらに「おまえいまから全員に謝ってこい」と命令されました。言われて謝るっていうのが、もういやで、苦しくて。

米光

それはつらい。

伊藤

だから先に謝ることにしたんです。「成功すると思ってました、でもやっちゃいました、すいませんでした」って先に謝る。あ、でも、ほんとこれ性格悪いんですけど、失敗したものは絶対もう一回やろうとしますね。自分の傷をしっかり覚えてる。

佐藤

へえー!

米光

ものづくりってそういうとこない? ぜんぜん違うものを作っていても、そこには前の失敗が生かされてたり。

伊藤

テレビのお客さんって移ろっていくんで。失敗した企画書こそ、怨念の塊のように取ってあります。

佐藤

ぼくもスベることはいっぱいあります。でも、当時スベったものでも、ウェブの場合は技術が変わっていくので、VRとか違う技術に持っていくとうまくはまったりする。あのころはまだ早すぎたんだなっていう。

伊藤

失敗を重ねていくと平気で失礼なことも言えるようになるんですよ。「だっておれ、いっぱい失敗しちゃってるから」って笑顔で言える。

対話から見えてきた「企画に大切な目線」へつづく

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