• シェイク!Vol.11 マンガやアニメをつくる側の視点(3)<br>諏訪道彦(読売テレビ)×高山晃(ファンワークス代表取締役社長)×小沢高広(うめ) (漫画家)

シェイク!Vol.11 マンガやアニメをつくる側の視点(3)
諏訪道彦(読売テレビ)×高山晃(ファンワークス代表取締役社長)×小沢高広(うめ) (漫画家)

異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。
連載第三回は、『名探偵コナン』アニメ化に至るいきさつの話から、SNS炎上話から仕事をする上でのコミュニケーションの話までを縦横無尽にお送りします。

原作ファンによる炎上はなぜ起こるのか

高山

諏訪さんのインタビュー記事を読んでいたら『名探偵コナン』が連載スタートしてすぐにアニメ化のオファーをされたとありました。

諏訪

連載が始まって8週目ぐらいですかね。『名探偵コナン』は、最初にぽーんと大嘘をかましてるんですよね。高校生探偵の工藤新一が薬を飲まされて小学生の姿の江戸川コナンになるっていう。でも、それ以外はリアルなミステリーとして作っている。この構造に惚れました。第1話の「ジェットコースター殺人事件」、びっくりするじゃないですか。いきなり首が飛んじゃって。こんな不可能犯罪どうやって解決するんだろうと思ったら、見事に解決するわけですよ。

高山

作品がヒットしてからアニメ化をオファーする人はたくさんいますよね。諏訪さんのように連載がはじまってすぐに「これはアニメになる!」って決断されるポイントが知りたいです。

諏訪

コナンの連載がスタートしたのが94年です。そのまえの92年に『金田一少年の事件簿』というミステリー漫画がはじまってとんでもないヒットをしました。タイミングの問題はありますね。あと、出版社って今はセキュリティが厳しいですが、当時は気軽に立ち寄ることができたんです。『YAWARA!』(のアニメ制作)をやっていたので、毎週1回小学館のサンデー編集部に顔を出していました。明日発売される雑誌を読みたいから、みたいな動機もありました(笑)。漫画を読むのが大好きなので。そこで知り合った編集者が他の漫画作品の担当に移って、それが面白かったりすると、その作品についても話ができる。そうやって広がっていくんですね。いちばん覚えているのは白井さんが「ビッグコミックスピリッツ」の編集長だったとき。

小沢

スピリッツの黄金期ですよね。

諏訪

そうそう。編集部で白井さんが『とんぼ』の最終回を真剣に見ていた。

高山

長渕剛さん主演のドラマですね。

諏訪

うん。ほんとは挨拶して帰りたかったけど、声もかけられず、ぼくも見ていてね。そしたら面白いんですよ。一緒になって「最高ですね」って話したり。ぼくはそこにアポを取って行っているわけじゃない。「とんぼ」が放送してるの夜9時ですからね。

小沢

ある意味、不審者ですね(笑)。

諏訪

そういうふうに、顔を合わせる関係を作ったことも、おもしろい作品をアニメ化できた理由だと思いますね。

高山

諏訪さんはインタビューで他にも、アニメをショートケーキみたなものだとすると、良い原作というのは質のいいスポンジみたいなものだと語っていらっしゃって。その視点はすごいなあと思いました。

諏訪

スポンジっていうと、地味に聞こえるかもしれませんが、腕の良い職人による質が良いスポンジってやっぱり美味しいですよね。よいスポンジの上にイチゴを挟んだりクリームを塗ったりするデコレーションがアニメ制作者の仕事だと思っています。漫画は1色なのにアニメは4色カラーで音がついて動くわけだから。もちろん原作者は神様ですよ。それは否定しませんが、我々だってデコレーションするという大事な作業をやっているつもりです。

小沢

たまにデコレーションで、原作ファンともめるときがありますよね。

諏訪

あります!

高山

コナンはいろんな設定がミックスしてあってスゴイですね!

諏訪

何回か失敗したんですよね。蘭が新一からプレゼントされて大切にしている携帯を、アニメオリジナルで壊しちゃったりとか。テレビアニメは、年間40本新作を作っていて、うち15本がオリジナルなんです。1年目からオリジナルに挑戦していることも、アニメ版コナンが長く続いている要因のひとつです。アニメオリジナルと原作の違いは、見たらすぐわかりますよ。蘭と小五郎とコナンがどこかに出掛けて事件が起こるのはアニメオリジナルですね(笑)。黒ずくめの組織が出てくるのは青山先生原作の回です。やっぱり、登場人物の兄弟や家族の話に触れるとか、そういうのはぼくらはできないですね。青山先生のエリアです。

小沢

住み分けがクリアになっているのがいいのかも。

諏訪

それははっきりしていますね。

小沢

ファンと揉めてる作品もあるじゃないですか。そこは変えちゃダメだろうっていう、重要なところが変更されたときに炎上する印象があります。それって、出版社サイドとアニメ制作サイドのコミュニケーションの問題なんですかね。

諏訪

そうですね。漫画家先生と直接話すことは難しくても、編集者がいるわけですから。担当編集者とどれだけ会話をするかが大事ですよね。

高山

ああーわかります。

諏訪

最近は編集者ひとりが抱える仕事が増えて忙しくなっているし、アニメ制作も分業が増えて、コミュニケーションが不足しがちかもしれません。以前は出版社に毎週顔を出せていたから、かなりのコミュニケーションが取れていたんですよ。それが会議のときにしか喋らないとなると、違ってくるだろうな。

小沢

ぼくのつたない経験でも、やっぱりそこかなという気がします。コミュニケーションが不足していたり、やりとりがうまくいってないと失敗しやすい。

高山

原作者とは意味が違うかもしれないんですけど、ぼくらはキャラもののアニメ化をやっています。キャラクターを作った人とやりとりすることが多くあって。最初のキャラクターデザインで、キャラクターの輪郭線がギザギザだったことがあって。「これ、ギザギザのままやるんですか」と聞いたら「そうです」と。でも、ギザギザのままアニメーションで動かすと、この角度やこの動きだとどうなってるか、ぜんぶ確認が必要になるんですよね。

小沢

アトムの頭のツノは正面から見るとどうなってるか問題みたいなことですね。

高山

そうです。その件はキャラクターデザイナーに毎週、モーションチェックしてもらい、ギザギザのまま動かしました(笑)、キャラがそのまま動いてほしいという彼らの思いに答えることで信頼関係が生まれたりします。ファンワークスのプロジェクトでは、原作者とアニメ制作者が同じチームで作るケースがけっこう多くて、そうすると毎週、シナリオ会議であったりするので、かなり仲良くなります。

小沢

ぼくも動きやすい小さなチームを作って、連絡を密に取り合って制作するのが好きです。スティーブズみたいに原作が小説だったりすると、編集さんを間に挟んで、漫画家と原作者でやりとりさせなかったりするんですよ。

諏訪

ふつうさせませんね

小沢

ぼくはそれがいやで。『スティーブズ』は、全員をFacebook上のクローズドなグループに入って、そこですべての情報を共有して作っています。もちろん、劇場版の映画とかは、関わってる人数が多いから、このやり方でやっても混乱するだけだと思うんですけど。

高山

諏訪さんのやっている大きなプロジェクトと比べるとスモールで、まあ、バンドみたいな感じですよね!

小沢

そうそう! バンドに近い。

高山

うんうん。この人はこの役割っていうのは明確にあるので、そこを起点に動かしていく。原作とシナリオの住み分けにこだわらず、原作者にシナリオを書いてもらうこともよくやっています。そうすることで原作者にとってアニメが他人事でなくなってくる。

小沢

「スティーブズ」で「このシーン欲しいから追加で書いて」って原作者にお願いしたんですよ。編集さんが「追加発注なんてありえない」って驚いてました。でも、そのほうがいいじゃん。

諏訪

よくなることならねえ、物理的に許されるものならどんどんしたいですよね。

小沢

ただ「間に入るのが自分の仕事だ」と主張してくる編集さんがいるんですよ。それで間に入ってもらったものの、結局ただの伝言ゲームになってろくに仕事してない。そういうパターンが多々あるんですよ。ぼくは直で連絡を取ってクリアにしたいタイプなんですよね。

高山

うちのアニメーターのラレコさんはもともと漫画家さんで、原作者と関係を作るのがうまいんです。以前おおひなたごうさんの漫画「目玉焼きの黄身 いつつぶす?」アニメ化の最初の打ち合わせでラレコさんは、漫画の冒頭シーンのアニメを作ってきたんですよ!、エンターブレイン(出版社)の受付に行ったら、ラレコさんとおおひなた先生がもう先にいて話してるんですよ。アニメ見せてるんですよ。まだ、アニメ化の許諾もらってなかったんですが(笑)、おおひなた先生はニコニコして話しをきいてくださっていて!

諏訪

話がはやい(笑)。

高山

作り手同士が手を握るといい関係が築けます。そのアニメのエンディングはおおひなた先生が歌ってくれて。

小沢

あー最高。

高山

おおひなた先生は歌がうまいし、アフレコにも全部、参加してくれて。いい関係でしたね。

小沢

ともすると、直でやりとりするの絶対やめてくださいっていうパターンもあるじゃないですか。

高山

あるんですけどね。それ止められないですよねぇ。

小沢

止めないほうがいいと思う。原作とずれたときの炎上って、間に入る人が原因じゃないかなあって気はするんですよね。

高山

ぼくは、アニメプロジェクトが始まると、「そこから、いかに抜けるか!」っていう感覚でやっています(笑)。

小沢

すごいわかります!

高山

会社にはプロデューサーもスタッフもいるから、良いスタッフとモノづくりのための環境整備をするのが社長の仕事だと思っています。

小沢

自分がいなくてもプロジェクトが動くようにするっていうのは憧れますね。

高山

諏訪さんを前にして僭越なんですけれども。

諏訪

いえいえ、そんな、それは大事ですよ。

高山

社長は会社のブランディングをする。そうすることでいろんな人が集まってくれて、作品が作れる。

小沢

場とか座、みたいな。

高山

そうです。場とか座に憧れます。

諏訪

テレビ局のなかでプロデューサーとしてものを作っていくのも、はじめは試行錯誤でした。今はアニメーション部に5人の人間がいて、でも5人みんなでひとつの作品を作るわけではなくて、ぼくはそのなかの名探偵コナンチームにいて、米倉というプロデューサーと二人で作っています。アニメのチームって、300人400人規模なんですよ。そのなかで読売テレビからは1人か2人入って、ビジネスとしてやっていく。どういうシステムでチームを作っていくのかはずっと考えてきましたね。

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