• シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(3)<br>小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.12 見せ方一つでデータを面白くする(3)
小国士朗(NHK制作局)×有沢慎太郎(NHK編成局) ×田中直基(Dentsu Lab Tokyo)×金沢慧(データスタジアム) ×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

異なる業種で活躍する5人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。

連載3回目は、AIをどんな形で使うと、面白さが増すのかという皆さんのお話が深まっていきます。

「ちょっとダメなAI」が開く可能性

森永

以前お話した時に聞いた、予測の精度を上げることを目指しているわけじゃない、という話が面白かったんですけれども。

小国

将棋や囲碁での、AIと人間の勝ち負けの世界だと、人間がなかなか勝てないから、AIは共生しにくい怖いイメージになる。でも、野球ってすごくいいねって話になって。

田中

野球でやりたいって話は最初の段階で出ましたね。

小国

データ量は豊富にある。でも、人間だから実際に投げてみるまでわからない。かなり余白があるジャンルだから、いい形で組み合わせられるんじゃないかなって。どうやったらAIと友だちになれるんだろうって考えたときに、人間らしさが残っているスポーツならAIが入ってきても嫌じゃないんじゃないかなって。勝ち負けにしないっていうのは、常に言ってたよね。それよりも、AIとのやりとりを面白がれるようなものにしたいよねって。いかに、AIが出した答えに人間が話をかぶせていけるか。

森永

AIが入ることによって、野球中継や野球そのものにさらにゲーム性が加わるということですか?

小国

そうですね。

田中

話題になるAIの使われ方って、商業寄りだったり、実用的だったり、それはそれで大事なことなんですけど、もうちょっとムダな使い方をしてもいいんじゃないかと。

小国

エンターテインメントって言って(笑)。

田中

すいません(笑)。なんかちょっと遊びみたいな使い方で、AIが人間に負けてもいいじゃないかというスタンスで。AIという比較対象をひとつ作ることで、人間のよさ、悪さが見えてくるみたいな。そのぐらいの気持ちでやったらどうかなって話はしてましたね。

小国

最初、直基くんが書いてくれた提案書に、データ×エンターテイメントって書いてあって。それ、すごくいい考え方だなってぼくは思ったんですよね。たとえばAIってユーザーからしてみると遠い存在だけど、女子高生AIのりんなちゃんとLINEでチャットできたら身近に感じるじゃないですか。高度な技術はなるべく平場に持っていきたいなって思っていて。前にやったのは、8Kの高精細モニターに円周率を1万桁並べたんですよ(場内笑)。高精細だからちっちゃくても読めるんじゃないかというので。

田中

ムダ(笑)。

小国

そう、ムダ(笑)。「おやすみ日本」という番組で六本木アートナイト2016に参加したときにやりました。

森永

よりにもよって「おやすみ日本」で!(注:「おやすみ日本」は、視聴者の安眠を目的に、宮藤官九郎と又吉直樹が低いテンションで眠くなりそうな内容を生放送する番組。視聴者が押す「眠いいね」ボタンが目標数値に達するまで番組が終わらないという双方向性が話題)

小国

円周率見てたら眠くなるんじゃないかなあと思って、一万桁をひたすら並べて、それを市原悦子さんが朗読するという。8Kの使い方としてめちゃくちゃムダなんだけど、お客さんは足を止めて見てくれてたんですよね。

森永

音響も8K用の22.1chですか? 市原悦子さんのいい声が22.1chで。

小国

いや、音響は無理だった。さすがに怒られた(笑)。今まで8Kでやってきたのは、ねぶた祭やリオのカーニバルを綺麗に映すことだったんですね。でも、一万桁の円周率でもお客さんの足が止まって「すごく細かいなあ」とか言ってくれたんです。ぼくは「×エンターテインメント」をすごく大事にしてたから。直基くんが言ってくれた「データ×エンターテインメント」っていいよねーって共感してプロジェクトが走り出したんです。共生するために、AIをちょっとクスッと笑える存在にしたくて、名前もこだわったよね。

田中

なんか「さん」はつけたかったですよね。意外と「さん」が大事なんじゃないかってずっと言ってた。

小国

ZUNOさんにはくるくるまわる目玉っぽいやつが2つ表示されてるんです。人間的な温かみと機械っぽさの両方をあらわすあのデザインは秀逸です。

金沢

この前、「ゆる~く深く!プロ野球」という番組で、ZUNOさんが予測してる隣にぼくが座ってたんですけど、ZUNOさんがことごとく外しまして(笑)。

有沢

4対3でヤクルトが勝つって言って、1回でロッテが4点入れちゃったんですよね。

小国

最初の予想が1回表の時点で外れるっていう(笑)。

金沢

そこで人間が安心するという逆の効果が出てくる。そこからウェブの反応はZUNOさんがんばれという流れに。

小国

弱いロボットが応援されるっていうね。

金沢

そうしたら、9回裏に最後、山田哲人っていう、去年までトリプル3を2回、2年連続でいったいいバッターが入ってきて。ZUNOさんが山田がホームランを打つって予測したんです。局面的にはそこまで盛り上がらない場面なんだけど、ZUNOさんそこはひとつ当ててくれーって盛り上がった。それは面白かったですね。

森永

デジタルの要素が加わったことによって、番組を見る面白さが増えた側面ってありますよね。実況したりニコニコ動画のコメントを楽しむことで、最後まで番組を見続ける人が増えた気がします。

小国

ぼくもニコ生に出たりするんですけど、デジタルって擬似茶の間だなって思うんですよね。今、一緒にこの瞬間を目撃しているっていう共時性は、デジタルのほうが感じやすい。そういう時代ですよね。

森永

さっき、(シェイク!直前の)控室で雑談してたのときに、小国さんが巨人の原選手のファンだったってお話してましたけれども。

小国

うん。

森永

例えばですけど、大差で巨人が負けてるから途中から嫌になって試合中継を見なくなっちゃったけど、もし今日9回裏に原選手が勝敗にはなんら影響がないソロホームランを打つ確率何割とか出てたら、ちょっと最後気になって、テレビつけちゃいますよね。

小国

あー絶対見ます!

森永

AIといってもいろいろな使い方がありますね。編成にはいろいろな企画書が来ると思うのですが、なぜZUNOさんを選んだんですか? ピンと来るものがあったんですか?

有沢

誰もやったことがないっていうのがいちばん大きかったですね。単純に面白そうだな、と。BS1の編成だったころ、今までのようにただ中継するんじゃなくて新しいものをプラスしないと若い人にスポーツ中継は見てもらえない、という危機感があったんですね。サッカーでは、ゴールキーパーだけを定点カメラで追いかける中継にサブチャンネルでトライもしました。MLBでは、スタットキャストというデータを使って選手の能力を数値化し表示することも始まっていました。そういう意味では渡りに船という企画でした。今までのデータ解析が違う切り口で使えるんじゃないかという。

森永

スポーツとデータと聞いてぱっと思いつくのが、バレーボールで監督がデータを見ながらやっている様子です。これまではプレイヤー側が自分たちの精度を上げるための分析に使うことが多かったと思うんですね。そのなかで、番組視聴者への見せ方としてスポーツデータを使うことは、増えていたりはするのでしょうか?

金沢

もともとはやはり、チームに対しての仕事が多かったですね。チームを強くするためにデータが使われていました。そこから、メディア、とくにインターネットメディア向けにデータを提供することが増えてきました。細かなデータを速報で見たいひとたちが増えてきたんです。さらにインターネットだけでなくテレビでも野球のプレイデータを見ながら観戦を楽しむひとたちが増えてきました。仕事としては、やはり、意味をちゃんと出すものが多いですね。たとえば、このバッターは外角が弱いって言われてるけど、実際データを見ると外角は打ってないね、とか。そういう補足をして中継で使ってもらうことが多い。ZUNOさんはそれとは違って、意味のないことを楽しむ企画だと思うので、そこは新しいかな。

小国&田中

ムダ(笑)。

森永

金沢さんにお聞きしたいのですが、このデータを番組でこう使ってくれたら面白いんだけどなって思うことはありますか?

金沢

もともとはデータを取って使ってもらうことが多かったのですが、最近はこちらから企画したり、実際に出ていって、解説の隣で話すこともやっています。昔に比べたらやりたいようにできています。ZUNOさんが解説者を目指してるのにあれなんですけど、先にNHKBSのMLB中継で解説デビューさせていただきまして。

森永

解説デビュー!

金沢

やっぱり難しかったですね。ぼくみたいな、高校までは野球をやっていたけれどもプロでもない人間が、元プロの方の隣にいて、「いや、いまの違います」ってやっぱ言わないじゃないですか。でもバトルしたほうが面白いのならやったほうがいいのかもしれない。

小国

金沢さんがおっしゃったとおりで、機械のいいところって空気を読まないところ。ぼくたち演出側って、どうしても忖度するんですよ。そこで巨匠相手だろうがなんだろうが問題提起をできるのがデータのいいところ。ディープラーニングなので、そのデータがどうやって生まれてきたのか過程はわからないですけど、ぽんって出てきたものが突拍子もないと、人間が面食らって、そこで会話が生まれる。AIに答えを求めるんじゃなくて問題提起をしてもらう。そういう使い方なら幅は広がるだろうと思いますね。

金沢

台本があるよりも即興で会話が生まれるほうが、ライブ中継として正しいかもしれません。

小国

AIにちょっと答えを求めすぎている気がしていて。

森永

会話型のAIにも2種類ありますよね。って、ひとつはアマゾン・エコーのように、「明日の天気は?」と聞いたら「晴れです」と正確な答えを戻してくれるロボット。もうひとつは、りんなみたいに「明日の天気は?」と聞いたら「え、なに、明日どっか行きたいの?」と返してくるもの。日本人はどちらかといえば後者を好むそうです。そういう意味で、ZUNOさんは、海外からは出てこない発想かもしれないですね。

小国

それはねー、MITメディアラボ所長の伊藤穰一さんがこのあいだ日本に来たときに、まさにそのことをおっしゃってました。日本は特殊な国で、もともとロボット的なものと共生をしていたと。たとえばドラえもん。

有沢

共生なの、それは(笑)。

森永

心のなかではいっしょに住んでますよね。アトムもいますし。

小国

いるのが当たり前で、困ったときに「ドラえもーん」ってみんなすぐ言う。

森永

なんでいないんだろう? って考えちゃいますね。

小国

そういう感覚って海外にはないんですって。だから、データをゲームにつかうとか、テレビの放送を効率よく回すためのエンジンとしてAIを使うことは思いつくんだけれども、いっしょに暮らそうという発想は出てこない。

森永

さっきから頻出している「ムダ」が大事なキーワードになってきていますね。

小国

そうそう。

田中

今まで出てきたロボットって、ダメなやつ多いですもんね。正解を教えてくれるロボットというより、ダメなパートナーというか。

小国

ドラえもんも、そうだもんね。

田中

日本のひとつのユニークさかもしれない。

小国

だってドラえもんがさ、なんでドラ焼き食べるんだろう、とかさ。ロボットなのに。

森永

どう消化されてるんだろう。

小国

そういうファンタジーな要素が日本人にとっては大事なんだよね。

有沢

それだけ漫画カルチャーが発達してるってことですよね。

次回 スポーツデータの現在 へつづく

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