• シェイク!Vol.15 「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」(2)<br>空門勇魚(NHK制作局第1制作センター青少年・教育番組部ディレクター)×ライラ・カセム(デザイナー・大学研究員)×森永 真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.15 「ここが変だよバリアフリー ~障がい者とメディアの距離感と手ざわり~」(2)
空門勇魚(NHK制作局第1制作センター青少年・教育番組部ディレクター)×ライラ・カセム(デザイナー・大学研究員)×森永 真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

異なる業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。連載第2回は、いったい当事者とのズレはどこで起こっているのか、起こりうるのか実体験を通して考えた。

健常者の対応はズレている?

森永

今日来る途中で、はたと気づいたんです。おふたりたどり着けるのかなって。会場までのルートがややこしいじゃないですか。段差もあるし。工事中が多いから、路面もガタガタだし、通れない道が多いんじゃないかなとか。

空門

はい、迷いました(笑)。歩道橋に上がるエレベーターがなかなか見つからなかったんです。

森永

ライラさんはどうでした?

ライラ

新宿駅からの乗り換えが大変でした。南口から大江戸線が繋がっていなくて、西口まで行かなきゃいけなかった。車椅子あるある、ベビーカーあるあるだよね。行きたいところは近いのに、アクセシブルなルートだと遠回りになるって。

空門

渋谷駅に5段だけの階段とかあるんですよ。なんのためにあんのやろっていう階段。

ライラ

スロープにできるやんっていう。

森永

エスカレーターに行くまでに2段の階段があるやつとか、謎ですよね。

空門

そうそう。あれがあった日にはめっちゃ困りますよね。

森永

今日、築地市場駅からのルートがいちばん楽だって伝えておけばよかったと後悔して。それで気になったのは、迎え入れる側の配慮の問題もあるとは思うのですが、障がい者の側の工夫として、どのルートがいいか事前に聞くことはあるのか、それともそういうことはせずに自助努力でなんとかしちゃうのか。

空門

人によりますね。それは。

ライラ

うん。そのときのテンションによる。私は余裕があって調べられるなら調べるけど、余裕がなかったら人に聞きます。イギリスに帰って思ったのが、日本ってすごく便利でアクセシブルなんですよね。東京なら駅に行けば必ずエレベーターがあって。

空門

そうですね。

ライラ

ロンドンの地下鉄って、何百と駅があるなかで、エレベーターがあるのは数カ所なんですよ。

森永

オリンピックがあった直後なのに。

ライラ

ロンドン・オーバーグラウンドという地上を走る鉄道はアクセシブルなんですけど、地下鉄は古くて利用しづらいです。トイレも有料です。役所に行って身体障がい者用の鍵をもらってようやく入れるんです。障がい者用トイレでカップルがイチャイチャするのを防ぐためらしいんですけど(笑)。

空門

あ、そうなんだ(笑)。

ライラ

そういうケースがいくつもあるそうです。まあそれはどうでもいいんだけど(笑)。要するに、イギリスってアクセシブルじゃない分、自分から「手伝って」と主張することが重要なんですね。自分から動くと、人も「わかった」といって手伝ってくれる。日本の方って「手伝ってください」って言うと、アワアワするじゃないですか。優しいがゆえに。

森永

たとえば電車で席を老人に譲ろうとして「俺は若いんだ」って怒られるうちに、だんだん譲るのが怖くなって譲らない人になるケースってあると思うんです。この人はどっちなんだろう? と考えすぎて行動に移せなくなる。とくに障がい者に対しては、ふだん身の回りにいないこともあって、行動に移す前に考えすぎて、要らぬ配慮のし過ぎで何もしない人がたくさんいるんじゃないかっていう気もするんですよね。障がい者としては、配慮をされたほうがいいのか、あるいはふざけんなって人が実は多いのか、どっちなんですか?

空門

ふざけんなって怒るヤクザみたいな人はそんなにいないと思う。ぼく自身は、困っているときには自分から声をあげて、それに応じてくれる人がいればそれでいいです。困ってないのに「どうしました?」「大変なことになってますか?」と声をかけられると。

森永

親切の押しつけになっちゃう?

空門

別のことしてるときに話しかけられると、「あ、どうも……」みたいなかんじになるので。様子を見て声をかけてくれるとありがたいです。

ライラ

でも、困ったときに言えない人もいると思うんです。障がいがあっても申し訳なくて言い出せない人っている。ほんと性格の問題なんですよね。明るい障がい者もいれば、暗い障がい者もいる。シャイな人もいれば、積極的な人もいる。

空門

そうですね。

ライラ

以前ツイッターで見て、いいなあと思って実践していることがあります。空いていたら優先席に座る。ほんとに困っている人が来たときに譲るためです。車椅子を横に置いて、優先席に座ります。でも、さっきの話にあったように、相手が本当に優先席を必要としている人なのかどうか、ぱっと見にはわからないので、数駅待ちます。それで明らかに足がふらついていたら譲ります。

森永

事前の打ち合わせでも「申し訳ない」という言葉がキーワードになりましたよね。何もしてなくても常に「迷惑をかけてごめんなさい」みたいな態度で居続ける障がい者とその周囲の人っているよね、って。日本の障がい者やその家族で「申し訳ない」という態度を取る人は、やはり多いものなんですか?

空門

親御さんは多いように感じます。

森永

周りの人のほうが余計そう思っちゃうんですかね。

空門

うん。本人は別にあんま思ってないんちゃうかな。

ライラ

本人がどう思うかは、親御さんの姿勢によるとおもいます。私は幸運にも、自分が障がい者だと意識することなく育ちました。両親が共働きで、職場で待たされることも多くて。国際的な会社だったし、母は障がい関係の仕事もしていたので、小さいころからいろんな人と触れ合うことができました。親は積極的に、障がいをどうやって乗り越えるかを考えてくれた。脳性麻痺っぽくないねってよく言われるんですけど、それは小さいころから母が私にトレーニングをしてくれたから。ものを吸う訓練として、味のない水飴を私に舐めさせてたんですよ。逆に、これまで障がい者に触れたことがなくて、どうしたらいいかわからない親もいるでしょうからね。

森永

空門さんは『バリバラ』を作っているなかで、障がい者の周辺の支援者に対して、違和感を感じたり、こうすればいいのにと思ったことはありますか?

空門

難しい質問ですね・・・。取材している実感で言うと、やっぱり自分の子供って可愛いんですよ。それでも身体の障がいだと、育つうちに大人の思考が身について勝手に親離れするし、親も子離れしていく。でも、知的障がいや発達系の障がいだと、親がなかなか子離れできない。「この子は守ってあげへんと生きていかれへん」っていう接し方を10年20年やってると、どのタイミングで切ったらいいかってわかんないと思うんですよね。

ライラ

家族のマスコットになる方もいますよね。とくに重度の方など。

森永

そういう様子を見ていて、もっと自立の方向に行ったほうがいいのになと端から見ていて思うのか、それもしょうがないなって思うのかどっちなんでしょうか。

空門

理想は前者ですけど、後者も分かるっていうのが正直なところかな。どこかの段階で「もう子供じゃない」って言わんとあかんねんけど、でも現実問題として、重度の障がいであればあるほど、それは身体障がいもそうですけど、「ひとりでごはんも食べられへんのにどうやってひとりで生きてくの?』って思うじゃないですか。そうなるとしょうがないですよね。

ライラ

私、「だいじょうぶです」が口癖になってるんです。街中に出ては「だいじょうぶですか?」と人に聞かれて、「だいじょうぶです」「だいじょうぶです」って。1日10回くらいは言ってる。なんで私は人に「だいじょうぶです」って言わなきゃいけないの? という気持ちはあります。障がいってね、この体が障がいなんじゃなくて、なにかできないことにぶつかったときにそれが障がいだから。「だいじょうぶ」って、それにぶつかったときの頻度だなって考えています。

森永

その配慮ズレてるんだよなーって思うことはあります?

ライラ

極度のお客様精神に違和感を感じることはあります。今日も駅でパスモを出そうとしたら、駅員さんから「やりますよ」って言われて、「いやできるわ!」みたいな(笑)。

森永

出すだけじゃーんと。

ライラ

「車椅子の方通りまーーーーーす!」と大声で叫ばれたりとか。

空門

あるよねー。

ライラ

自分ができるっていうことを説得するのが難しい。イギリスでは、自分で交渉して、相手も「手伝うけど責任は持たないからね」ってはっきり言ってくれる。「責任が持てないから」じゃなくて「持たないから」って言ってくれるから、自分で考えて判断できる。

森永

空門さんはどうですか?

空門

車椅子とかベビーカーで混んでるエレベーター乗るときに、めっちゃ場を仕切るおばちゃんがいるんですよ。

森永

あー想像つきました(笑)。

空門

「じゃあまずあんた入って、次あんた入ってー」と。あれちょっと恥ずかしいですね(笑)。

ライラ

あと、エレベーターのドアを押さえてくれた結果、その人が邪魔で入れないときがあります。

空門

「どうぞー」って押さえて親切に言ってくれているが、みたいなやつね。

ライラ

ってごめんなさい、愚痴になっちゃった。

客席 B

障がいなどの困りごとを抱えた方と、手助けしたい人をLINEでマッチングする「アンドハンド」というサービスに携わっている者です。障がいに向き合うことができでいない障がい者に対して何ができるのか、どう接したらいいか悩んでいます。

空門

向こうから登録してくるんですよね? 登録はしてくれたけどまだ向き合えてないと感じるときがあるんですか?

客席 B

相手のニーズがよくわからなくて。具体的な支援よりも、精神的なことへのアプローチや接し方のほうが課題のような気がしています。

空門

向こうから能動的にエントリーしている時点で、何かを求めていると思います。もしかしたら、とにかく繋がりを持っているだけで満足してる可能性だってあるかもしれない。こっちの価値観であーだこうだ考えるとドツボにはまるので……。

ライラ

ヒアリングしてもいいですよね。

森永

うんうん。伝えあったほうがいい。

空門

そうですね。相手がどんな状態か、何を求めているのか、地道にコミュニケーションを取っていくしかないと思います。

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