• Gプレスvol.159更新 フジテレビ 野村和生さん × テレビ東京蜷川新治郎さん 対談「いま本当にテレビに求められるべきことは何か [中編] 」

Gプレスvol.159更新 フジテレビ 野村和生さん × テレビ東京蜷川新治郎さん 対談「いま本当にテレビに求められるべきことは何か [中編] 」

G-PRESSでは過去様々な記事を掲載して参りましたが、今回より新たにシェイク!のようなトークセッションではない、対談シリーズの記事も掲載していきます。
初回は、フジテレビの野村和生さんとテレビ東京の蜷川新治郎さんにお二人が手がけられているVODにまつわる話を中心にお話を伺いました。前中後編の全3回シリーズです。

Gプレスvol.159

さて、ここからは少しだけ視点を変えて、お二人がいま気になっていることをお聴き出来ればと思っています。野村さんからいかがでしょうか?

野村

それはもう「大江戸今昔めぐり」という古地図アプリですね。この古地図アプリは、自分一人が現在のFODの業務に迷惑を掛けないからやりたいと言って、二週間に1回だけ外出して作っています。

インタビュアー

お一人でされているんですか?

野村

5社の製作委員会でやっているのですが、フジテレビからは自分だけですね。北海道出身だから東京みたいな歴史のあるところが羨ましいんですよ。実家の土を掘っても泥炭地で泥炭が出てきてお終いなんですよ(苦笑)。それが大学の時に東京に出て来て最初は府中に住んでいたんですが、窓を開けたら建て替えか何かのタイミングで発掘調査をしていたんです。溝があったりしてすごいなって思いながらそれを毎日見ていました。関西に行ったら古墳とかが当たり前にあって、城もあるし、北海道は松前城はあるけど天守閣もないから迫力がないし、あるとすれば五稜郭ぐらいですね。だから昔ここはどこどこの屋敷だったんですとか、こんなものが出土したって話は羨ましくて、それがきっかけでアプリに関わり始めました。

蜷川

今の野村さんの話に関連すると、中国の人が日本に来る理由の1つが、京都なんかの町並みが向こうの古い街と似ているらしく古い地図を見ているかのようだから来るんだ。という話を教えてもらったことがあります。

野村

古地図にはけっこう詳しくなりました。中川惠司さんという80歳過ぎのおじいさんに古地図を書いてもらってますからね。放っておいたらどんどん情報や資料は無くなっていってしまうので、それを残すことが大事だと思ってやっています。
古地図アプリはブラタモリで使ってもらうことが目標で、タモリさんにアプリを届けたいです。

蜷川

最近というより、いつも気になっているのは、テレビがデバイスとして全然便利になっていないことです。テレビって実はリモコンが出来たぐらいしかイノベーションされてないじゃないですか。画質は多少キレイになったり、値段は多少安くなったり、電気代やすくなったりあるんですけど、ユーザービリティは変わらないですよね。でも他のデバイスがこんなに使いやすくなっている世の中で、テレビが取り残されていると思うんですよ。ラジオはradikoになって使いやすくなり、雑誌も電子書籍になり、新聞も当然電子版になりました。もちろんメディアが変わるタイミングで当然価値も下がるから、ビジネスが上手くいかなかったりもするんだけど、テレビってもう少し使いやすくていいじゃないかと。AbemaTVみたいなUIのものが出ている以上、テレビも技術的には出来るわけじゃないですか。

野村

複数チューナーで受信しておけばいいんですもんね。

蜷川

それで(Abema TVみたいに)チャンネルがバンバン変わったらね。今はチャンネルを変えるのに、黒みが出でて3~4秒切り替わるのに時間かかるし、CM中にザッピングされるとか言いますけど、僕は最近ザッピングなんてしないですよ。黒みが出て見えなくなっちゃうから。そのまま諦めて見る。そうするとスマホを片手に取ることが増えました。

野村

たしかに全録があるくらいだから出来ますよね、受信しちゃえばいいんだから。

蜷川

だからその辺は真剣に考えないと、さっきも言ったUXも含めてコンテンツだって言われたときに、テレビは著しくUXが劣っている気がするんですよ。テレビの枠組みで守られてきた、画面を汚してはいけないみたいなことも重要だと思うんですけど、その一方で見せ方とかも(今に合った形で)合っていいと思う。

野村

少しだけ話が変わりますが最近Alexa(Amazon Echo)を買ったんですよ。ああいうのが一つの正解なのかなと思いつつ、ホームサーバー構想は昔から日本にあったじゃないですか。でもホームサーバーの中心はテレビだったんですよね。だから今日本メーカーがそれを出していないところがちょっと勿体無い。テレビはホームサーバーにぴったりなんですけどね。

蜷川

たしかに日本はテレビをもっとリッチにすることが出来た国だと思うんで、それこそAlexaやGoogle HomeやChrome castもそうかも知れないけど、ああいうデバイスが、家のど真ん中に置かれるし、それありきのときにテレビが単なるディスプレイ装置感が出てしまいます。まだAIスピーカーはリモコンと検索エンジンの代替品でしかない。電源切ってと言ったら電源切るけど、それは別にリモコンで消せばいい話で、天気予報等を聞くことも含めてエンターテインメント性がどんどん出てくるとこれも面白くなるんだろうけどね。パーソナルなコンセルジュじゃないけど話し相手になってくれるとか。最近サービスでいろいろと考えているのは、「あれ、いま何て言った?」てことあるじゃないですか?、テレビ見てて。
テレビを真剣に見てないときにスピーカーが「今、○○が△△とかって言いましたよ」とか、巻き戻したり視聴体験を邪魔せずに、フォローしてくれとか。専門用語を拾って、「TPPって知ってる?」みたいな。「よくわからない」って返したら、説明してくれて、そこで「知ってるよ」と言ったらそれ以上は聞かなくなるとか。テレビはそんな新たな機能(体験)を提供するチャンスがあったんだろうと思うんですが、ハードディスクレコーダーみたいなテレビ局には全くビジネスにならないモノが出来ただけでもう進化が止まっちゃったじゃないですか。

野村

こんなにいっぱい家電メーカーあるのにと思いますよね。

蜷川

画質はよく謳っているじゃないですか。問題はそこじゃないんじゃないかと。テレビだったら、画質がきれいになれば喜ぶだろうって考えが一番だと思うんですけど、もっと手前に使い勝手とかエクスペリエンスを良くしていこうって発想が出てこない。この中に映っているものがキレイだから顧客満足だって、もちろん満足なんだけど、今テレビ業界が直面していることは、それ以前の問題だと思うんですよね。AIスピーカーを持っている前提で、もうChrome castとかの技術を使ったほうがよっぽどテレビとしても活きてくるんだろうし、もっと言えばテレビ局の放送が更に使いやすくなる。BS4Kが始まるタイミングで、突然すごく動きが速く・軽く出来たら、BS4Kは普及するんじゃないですかと、真剣に思っています。最近はその辺りのことにすごく興味を持っています。
テレビはガッチガチの仕様を、絶対に逸脱してはいけない形で残ってきた。だからなんで逸脱しちゃいけないのか、って問いを考えてこなかったから反応するのが難しいですよね。例えばテレビは公共のものだから、絶対放送が途切れるといけない、仕様は守る必要がある。スマホのLIVE配信みたいに配信が途切れたり、画質が落ちたりは許されないわけです。それは緊急時に、放送が見られなかったら。。。とかがあるからだと思うんだけど、それとガチガチの仕様のままでユーザビリティを向上させないことはまたぜんぜん違う軸だから、そこを何年も手を付けないできたところが、やっぱりNetflixボタン一つ出来ただけで、大騒ぎになるようなことにつながるんです。

様々なVODサービスが群雄割拠してくることでサービス自体は当たり前の風景になってきた感がありますが、 サービス開始から現在に至るまでで意外だったこと? 予定通りじゃなかったことはありますか?

野村

全く予定通りじゃなかったですね。まさか日本テレビがhuluを買収するとは思ってもいませんでした。FODはかなり予算も使っていましたけど当時は独走状態で、民放No.1は堅いなと思っていた矢先に突然日本テレビのhulu買収のニュースが出てきましたからね。huluは累計で100億円くらい赤字も出しつつコンテンツをどんどん調達していきました。でもそれに触発されて、自分たちもいろんなコンテンツに投資をするようになったので面白いですけどね。自分が何よりVODコンテンツをめちゃくちゃ見るようになりました。現状NetflixもhuluもAmazonプライムもNHKオンデマンドも全部契約していますし、逆にそれらを見る時間が無くて困っています。もちろんFODも見なくてはいけないので。あとFODで展開している漫画も読んでますからね。だからコンテンツにめちゃくちゃ触れるようになりました。

蜷川

地上波の番組をVOD配信することがだいぶ当たり前になってきましたよね。やはり5年前は社内にはふざけんなって空気がありました。自分の考えていることは5年前から変わっていないんです。周りにも前のめりになっている人が増えてはきたものの、まだ視聴率が下がるって後ろ向きな人もいるんですが、世の中的にも当たり前になってきた印象があります。そのなかで配信をやってみて、完パケで配信するから簡単だと思っていた作業が、さっきの野村さんの話じゃないですけど、やり直しや作り直しに近い作業をして配信するのが当たり前なのがユーザーには伝わらないし、世の中も関係ないわけです。一番の気付きはそんなことは関係なくアップされている違法なコンテンツのほうが便利で良いものとして流通してしまうことが改めて分かったことでした。一度流通するとそこを改善することはなかなか出来ないんだと知ったことですね。

野村さんのお話にもありましたが、FODでは電子書籍事業などもされています。テレビ東京では今後何か新しい試みを行うことはあるのでしょうか?

蜷川

僕がイメージしているのは、無料配信の部分は極論するとテレビコンテンツのプロモーションぐらいのイメージです。もちろん、動画を見てもらえれば広告が付く収益モデルなんですが。考えてみれば、うちで数多く放送しているアニメでは、地上波はプロモーションツールですよね。もちろんCM等もいただいて広告ビジネスもするのですが、基本的にはコンテンツを一人でも多くの人に、知ってもらい好きになってもらうツールだと思っています。無料配信はそれの拡大解釈かと。
だからテレビ東京がやっていくことは、言葉は新しくないですがファンクラブみたいなこと。テレビ東京のコンテンツが好きな人、極論すると本当にコンテンツ毎にセグメントされたファンクラブが出来上がればと思っています。ただ日本では一年間続くバラエティーはありますが、一年間続くドラマはなかなかないので、難しい側面もありますが、個人的にはファンクラブ的な要素をもう少し強くしたほうが、そのコンテンツのことを好きな人が集まり、結果的にもっと好きになる循環が出来ると思います。

インタビュアー

いま世の中の時流的に、ファンを醸成することやコミュニティを形成することの重要さはいろんなところで言われていて、蜷川さんが構想されていることもそれに近いですね。

蜷川

もちろんテレビ東京もある程度総合的なVODサービスもやるんですが、FODやhuluがもう第3コーナー、第4コーナーでしのぎを削っている中で、テレビ東京はそこを一足飛びで行けるかと言えばそうでもない。違う価値観のサービスを作りたい。もう少しコアな客層、すごく直線的な言い方をすれば単価を高く払ってもらえるようなサービスにより注力していかないと厳しいだろうと思います。

FODではFOD独自のコンテンツが作られたりします。テレビ東京ではVODオリジナルのドラマ等は作られないのでしょうか?

蜷川

そんなことはないですよ。むしろやっていきたい。そういう意味ではファーストウィンドウがネットになるものはあると思う。いま制作陣などには、「モヤモヤさまぁ~ず2」みたいな冠を背負った番組のスピンオフコンテンツみたいなものを、無理言って作ってもらっています。「YOUは何しに日本へ?」や「家、ついて行ってイイですか?」も作ってもらっているんですけど、全然知らない中身のコンテンツを入り口として流す大変さってあると思っています。テレビ東京はVODサービスの本店を持っていない。初出しのオリジナルコンテンツをどこかプラットフォームに放っても、埋もれる可能性もあります。だから、ある程度放送されている番組と絡めていきます。テレビ番組は、どうしても視聴率を取るために引っ張る演出があったりしますが、、ネットは長く見せることがビジネスに直線的にはつながらない。トンマナに違いがあると思います。まずは、小さくそういうところからやっていますし、培ったノウハウを生かして、今後はParaviをきっかけに、オリジナルをネットに先に出して、面白ければテレビに戻すような展開もあるんだと思います。

野村

少子高齢化の影響でテレビがおじさん・おばさんのものみたいになってきて、やはり若い人向けかつ出演者も若い子が主役になるようなコンテンツがたぶんすごく減っていると思います。その結果、Youtubeに流れていっているということもあるので、彼らに向けたコンテンツをインターネットのほうでやっていくというのはある種可能性もあるかなと思います。

[野村和生 x 蜷川新治郎 対談 後編 へ続く]

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