• シェイク!Vol.16 「境界線を越える仕事」(3)<br>後藤繁雄(クリエイティブディレクター)×草彅洋平(東京ピストル代表取締役社長)×ターニャ (谷生俊美)(日本テレビ)

シェイク!Vol.16 「境界線を越える仕事」(3)
後藤繁雄(クリエイティブディレクター)×草彅洋平(東京ピストル代表取締役社長)×ターニャ (谷生俊美)(日本テレビ)

連載3回目は、「編集」という言葉をキーワードに、本をすすめるキャバクラを作りたいという草彅洋平さんの野望、ターニャさんはどんなBlogを書いているのか? そしてなぜ後藤繁雄さんはほとんど新刊書のある本屋に行かないのか?

「好き」を発信していく

ターニャ

後藤さんは自分の力のみで、どこにも所属することなくやられていてすごいなと思いました。私は会社に守られている。攻めた姿勢ではないんですよね。

草彅

会社で収入を得てるって最強だと思いますけどね。会社と好きなことの両方でお金を得られるのっていいじゃないですか。

ターニャ

後藤さんはいろんな肩書きを持っていろんなことをやられている。

後藤

でもひとつのことしか、編集しかやっていないですよ。

ターニャ

どこにも所属しないでやるのは、会社員からすると憧れます。

後藤

才能があるんだから、編集者とコラボレーションしてうまくやろうよ。

草彅

ターニャさんはブログも書いてるんですよね?

ターニャ

ターニャの映画愛でロードSHOW!!」というブログを書いています。金曜ロードSHOW!!で放送するタイトルや、それ以外のことも、正直に思ったことを発信しています。この間はアカデミー賞外国語映画賞をとったチリの映画『ナチュラルウーマン』を取り上げました。すっごいいい映画なんです。

草彅

トランスジェンダーの女性が主人公の話ですよね。恋人が死んだのに、葬式に来るなと拒まれて。

ターニャ

そうです。主演のマリーナを演じたのは、自身もトランスジェンダーであるダニエラ・ベガ。彼女が日本に来るというので、どうしても話が聞きたくて。それで取材しました。

草彅

それがいい記事だったんですよ。

後藤

つまりターニャさんも編集をやっているということですね。

ターニャ

書きたい思いは強くあります。

後藤

取材することで、憧れの人と自分の関係が発生するでしょう。それが大切なんだよね。ぼくは坂本龍一さんや細野晴臣さん、篠山紀信さんと仕事をしているけれど、何もしないで向こうから依頼されるなんてことはないわけです。ただの野良犬なわけですから。最初はインタビューをして、そこから関係が生まれていったんです。

草彅

ちゃんと会いにいくところが、編集者の行動ってかんじしますね。

ターニャ

根っこが記者なんだと思います。

草彅

今はSNSのおかげで、いいものを見つけたら、それがいいってことを発信できますもんね。

ターニャ

ブログでの発信は楽しんでやっています。

草彅

後藤さんはスーパースクールという編集の学校をやっています。下北沢の「本屋B&B」の内沼晋太郎さんとか、いろんな教え子がいますもんね

後藤

そうですね。本を読むときには、書き手がどんな言い回しをしてるかが重要なんです。たとえば現実と虚構とを対比させて二元論で考えるのは思考でしょう? で、現実と虚構の間を「波打ち際」と表現したとする。これは独特な言い回しですよね? そこに書き手のオリジナリティが宿るので、そういう部分を拾って読むわけよ。そういうことの重要さって、学校では教えてくれない。でも本当は、賞味期限が切れないものを作るときのポイントってそこなんだと思うんです。書き手のオリジナリティを引き出すのが好きで、だから教えたりコーチングするような仕事を長くやっています。

ターニャ

楽しそうです。

後藤

そうですね。お客さんが主だからさ、ぼくはコーチングするだけ。必要なものは書き手にもうあるわけです。

草彅

ターニャさんは最終的には映画を撮りたいんですか?

ターニャ

シナリオを書いてみたいし、作ってみたい。それは必ずやります。ストーリーテラーになりたいという思いが強くあるんです。

後藤

うんうん。

ターニャ

中東に行ったときの私に、将来トランスもして、金曜ロードSHOW!!のプロデューサーをしてるなんて言っても、信用しないと思う。でも、ずっと映画やりたいやりたいと言い続けていたら、聞いてくれた。できると信じたらできる。

後藤

草彅さんが今後やりたいことは何ですか?

草彅

本屋のキャバクラを作りたいですね。本を最大限に使ってなにか面白いことをやりたい。たとえば本を媒介にして人と出会う場所を作るとか。

後藤

ああ、そういう意味でのキャバクラ。

草彅

そうです。「この本めっちゃ面白いよねー」「いいよねー」って話したいんです。学生のときってほぼそれで友達作ってました。

ターニャ

自分の好きなものを人に勧めるのがすごい好きです。エジプト駐在時代には、『ロード・オブ・ザ・リング』がいかに素晴らしいかを会う人会う人に語って、興味を示した人を対象に、自宅上映会までやりました。1本3〜4時間もあるものを3部作分。ちゃんとお酒とごはんも用意して。

後藤

ぼくも勧めるの大好きですね。

草彅

大好きです!

後藤

本屋のキャバクラの具体的なイメージはあるんですか?

草彅

年内に作りたくて、いま動いています。この世にない店、いままでにない業態を作りたいんです。コピー&ペーストで作られたみたいな店あるじゃないですか。国道線沿いに並ぶチェーン店とか。そうじゃないものがいい。かといっておしゃクソ本屋も嫌いなんですよね(笑)。おしゃれすぎてクソすぎる店のことを「おしゃクソ」って呼んでるんですけど。ぼくは、その町にしか成立しない店を作りたい。たとえば歌舞伎町ブックセンターは歌舞伎町にしか成立しない。

後藤

ぼくは新刊本屋にはほぼ行かないんです。それは、「買え」とばかりに置いてある本ばかりだから。「買え」って退屈でしょう。それよりも、10年、20年、30年の中でどういう本が生き残ってるかのほうが重要じゃないかな?

草彅

重要です。

後藤

だから古本屋や図書館に行くようにしています。まんだらけで古書価がいくらになってるかを見るのも面白いよ。たとえば、横尾忠則や平野甲賀が装丁している本は高くなっている。ということは、高くなる人と仕事をしたほうがいいってことになるでしょう? 時代の中でちゃんと残る本が作りたいのなら、どの写真家、デザイナー、アーティストと組むかが重要になってきます。

草彅

本の評価として古書値を基準にするのって正しいですね。

後藤

図書館なんかもう死体置き場みたいです。10年間誰にも触られてないような全集とかがたくさんある。そこに新しいものを足しても意味がなくて、今までのものをDJみたいにアレンジして、新しい人が食べやすくする。草彅くんはそういう編集者だよ。場のプロデュースっていうけど、それはDJであり編集なんだと思います。

草彅

ありがとうございます。そうです、編集者って大事な存在なんです。

後藤

ぼくは50年ぐらい前のフリージャズを今も聴いています。YMOは40周年だけれど、今でもまだ聴いてるよね。

草彅

聴いてます。

後藤

それは音がどうやって作られて編集されているかによるんです。だから、本を作るときは、「何十年も生き残っているものVSぼく」で考えるべき。「新刊書店VSぼく」だとまずいわけです。ものづくりってそう考えないとダメだと思いますね。

[ 次回 ホストクラブの秘密を語る へ続く ]

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