• シェイク!Vol.4 面白いアニメとは何か考える(5)<br>那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.4 面白いアニメとは何か考える(5)
那須惠太朗(サンテレビ)×片岡秀夫(東芝映像ソリューション)×森永真弓(博報堂DYメディアパートナーズ)

シェイク!Vol.4「面白いアニメとは何か考える」のトークセッションの模様の5回目。
今回のトークセッションの核心部分「なぜアニメを好きになるのか?」について、それぞれのアニメを見る切り口から迫っていく。

アニメを好きになる理由

森永

アニメが好きな理由って突き詰めていくと、作画が好きとか、私の場合、伏線を回収するのが好きとか、いろいろありますよね。その要素を、片岡さんがまとめてくださいました。

片岡

私が好きな作品を抽出して、好きな理由を考察しました。リスト的には、過去66年から128作品。上位作品でいうと、「宇宙戦艦ヤマト」「未来少年コナン」「ルパン三世 カリオストロの城」、今の作品では「Re: ゼロから始める異世界生活」や「君の名は。」なんかがあります。好きな理由の要素を分析すると、「キャラクター」「エモーション」「ガジェット」「メタ」「ストーリー」「ビジュアル」に分類することができました。

 「キャラクター」は、キャラ萌えやエロス、あとは複雑な群像劇。「ルパン三世」なんかいい例ですけど、あのかっこいい仲間たちが見ていて楽しいっていう。それから「なりたかった自分」への投影なんかがあります。

 「エモーション」は、その世界観への憧れや、幼少期の思い出だったり、その時代性が好き。同時代性で見ちゃったから好きっていっている作品もあって。それは冷静に判断できない。これは音楽も一緒です。それから青春時代のノスタルジー。ああいう仲間たちの中に自分たちもいたはずだ、違う体験はしたけど「ああ分かる。懐かしいな。もう1回戻りたいな」みたいな郷愁。「ReLIFE」もそうなんですね。「高校生に戻れたら、本当はああいう青春を味わいたかった、ああいう仲間たちに囲まれていたはずだ」みたいな。それからリアルを超えた感情の爆発、パッションの内包。例えば「ソードアート・オンライン」なんていうのは、スピードを超えたエネルギー感みたいな爆発があって、敵を倒すんですね。アニメだからできるエネルギー感。実写だとリアルじゃなくなってしまうので、そういったことはできない。

森永

ちなみに今、はCGを突き詰めていくと、セルアニメ特有のダイナミックな素晴らしさが消えてしまうので、3DCGを使いながら昔ながらの作画のよさを併せ持ったような技法がどんどん進化しています。さらに一人で、CGもできるし、脚本も書けるしみたいなアニメーターさんが育ってきていて。そうやって世界に勝っていこうみたいなことが増えていますよね。

那須

はい。3Dのロボットの動きとかすごく複雑なんだんだけど、見栄えがいまいちだったりとかいうことが増えているので、逆にまた戻っていくっていう動きが最近でてますね。

片岡

「エモーション」のカテゴリーでは、破壊衝動の代償行為もあります。行き場のない不安や怒りの発露。自分が行きたい世界、会いたい人たちへの思いというのもあります。

 「ガジェット」は、メカの完成度、魅力、コレクション、種類への期待、変形のリアルさ。「メタ」は人類進化や能力が上がる……いわゆるクラークの「幼年期の終わり」的な。「エヴァンゲリオン」や「ガンダム」もニュータイプはそうですし、人間の能力がもっと可能性があるんじゃないかと期待感を表現するのにもアニメというのは向いてるかなって。あとは、「これはすごい」っておすすめしたくなるような作品。

 「ストーリー」としては、物語の伏線や謎解き、つじつまが最後に折りたたまれていく構造的な美学に喜びを感じる、あとは予定調和の破壊。今まで見たことなかったこんなシナリオ。ある意味「リゼロ」なんかはその要素があって、あれは発明といってもいい盲点の作品なんで。何しろヒロインとヒーローがしょっちゅう死ぬのに、それでも続く、それで面白い。あんなにヒロインをいじめていいのか、しかもヒロインじゃない人がヒロインになっちゃうんですけどね。そういうご法度がいっぱいあって、とても面白い。それから、当たり前ですが、感動を得られるストーリー。わくわくして続きが見たいという「引き」の強さ。これも「リゼロ」なんかそうなんですけど、アニメのテレビシリーズは次が大事なんで、それがあると見ちゃうんですよ。せりふ、脚本のうまさ。符号化、メタファーによる謎解き示唆、ミステリー的展開。これは「輪るピングドラム」に顕著なんですけど、やっぱり謎解きに近いんですが、さりげなく記号が変えてあるんですよ、それで意味が変わる。それを解いていくことが楽しいんです。

森永

ちなみに昔、細田守監督がお話されていたのが、実写の映画やドラマは、実は大道具さん小道具さんによって用意されただけのものや、背景に結果的に写り込んでしまったものが画面に存在するのに対して、アニメーションは必ず監督の指示があったものしか描かれていないから、すべての絵に監督の意思がこめられていて意味があるって。だから「サマーウォーズ」の朝顔の色が変わったりするのには必ず意味がありますと。「シン・ゴジラ」はアニメをやる庵野さんの作品ですよね。実写なのに、全部の置物に意味がある。すさまじい情報量。「君の名は。」も、今の作画ではものすごい絵の量があるので、いっぱい気づいてしまって、何回も見たくなる。そういう魅力もあるかなあと思います。

片岡

「ビジュアル」にはそういう魅力と、あとは背景美術や色彩の美しさ、とくに「ノーゲーム・ノーライフ」「四月は君の嘘」みたいなハイキーできれいな世界。リアルではないんですが、それがもたらす美しい世界なんだけど、悲しい物語とか、そういった表現ですね。あとは映像のテンポ、リズムの心地よさ。まさに「君の名は。」なんですけど。監督がコントロールできるからこそ、やっぱりパーツパーツすべてでリズムが作れるので、非常に面白いことができる。

アニメを見る人たちが、こういった要素のいずれかや複数に反応して、作品が好きになっていってるんじゃないかなと。まだまだ入り口に入ったようなネタに過ぎませんが、こんな感じです。

那須

たぶんこれから評価するべき作品っていうのは、どんどん増えてくる時代になると思うんですね。なんでかっていうと、実はジブリの解散っていうのがすごく影響していると思っていて。宮崎さんが育てていたアニメーターが、スタジオが解散したことでフリーランスになって、いろんな作品で仕事するようになっているわけですよね。そうなると「君の名は。」でも作画監督が「千と千尋」の方であったり、田中敦子さんっていう動画の神様みたいな人がいるんですけど、「バケモノの子」と「君の名は。」の原画もやってるし、「聲の形」もスーパーアドバイザーで入ってる。要するにジブリの財産がいろんなアニメの作品に入っていってる状態なんですよね。今の若い人たちと組んでいったときにうまくシナジーになっていくと、それぞれの作品の力が上がっていくっていう下地があって。その芽生えの時期だと思うんですね。

片岡

アフタージブリになってきているということですよね。その才能が散らばってうまく「君の名は。」にも吸収されたわけですし、「心が叫びたがってるんだ。」でしたっけ? あの辺のスタッフが参加したりで。とにかく「君の名は。」は奇跡的にすごい神クラスの人たちが集合しちゃったっていう作品で、このタイミングじゃなかったら生まれなかったっていう、ある種、監督が「すごいラッキーだった」っていうのはその通りだと思うんですね。元々のファンも相当いたけど、あの化け方は本当にタイミングありきだし、いろんな人の思い、関係者の愛が伝わったっていうことだと思います。

「10月期の注目アニメ」へつづく

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