• シェイク! Vol.1 魅力的なコンテンツの見つけ方<br>西田二郎(読売テレビ)× 吉里裕也(東京R不動産)× 三根真吾(髪とアタシ)

シェイク! Vol.1 魅力的なコンテンツの見つけ方
西田二郎(読売テレビ)× 吉里裕也(東京R不動産)× 三根真吾(髪とアタシ)

テレビマンと異業種で活躍する3人がそれぞれの視点で語り合い、新たな価値観を生み出すヒントを見つけるトークセッション「シェイク!」。第1回は、読売テレビの「ダウンタウンDX」のチーフプロデューサーを経て、営業企画開発部長として新たなメディアビジネスを探っている西田二郎さんと、レトロな建物や「目の前が海」などユニークな物件を仲介することで人気の「東京R不動産」を運営する「スピーク」代表取締役の吉里裕也さん、美容師のための文芸誌「髪とアタシ」を創刊し、デザイナーの妻と2人で夫婦出版社「アタシ社」を設立した三根真吾さんが登場。「魅力的なコンテンツの見つけ方」をテーマに語り合った。

西田

「東京R不動産」はどうやってできたんですか?

吉里

東日本橋とか八丁堀とか東京の中央区の東のエリアなんですが、古くて良い物件、大正、昭和に建築されたものが壊されてしまう。ヨーロッパには普通に古い建物が残っているので、何とかならないかなって思って、古いビルや古民家の物件ツアーをしたんです。とりあえず見に行って写真を撮影して、終わったら飲みながら、あれいいよねとか話をする。空き物件の地図ができるので、それをウェブにアップロードして、マウスオーバーすると物件が出るといったものから始まったんです。

西田

最初からビジネスではなかったんですね。

吉里

加えて、自分が不動産物件を探しているとき、なかなかイメージが伝わらなくて、何とかならないかと思っている時期でもありました。わざと築20年以上で、徒歩20分以上とか、世の中が求めることと逆のことを言ってもなかなか出てこない。クリエイティブカメラマンの人にこういう物件知らないとか言われて、いつしか僕らが相談を受けるようになりました。いわば翻訳家みたいな感じです。不動産屋とクリエイティブな人だと会話ができない。だけど、建築家をしていた僕だと会話ができる、言わば通訳なんです。だんだん仲介というシゴトに近づいていきました。

西田

三根さんが「髪とアタシ」を創刊した理由は?

三根

美容師さんが読むための業界紙を以前作っていたんですが、出てくるヘアデザインとか似たようなものが多くて、ファッションやテクニックを排除した読み物を作りたかった。世の中には17万軒ぐらいの美容院があって、メディアに出てくる美容室、美容師さんというのはごくわずか。美容師の数でいえば40万人ぐらいいるんです。地方でも東京でも、美容師の仕事以外になにかおもしろいことをやっている人とか、地域に根ざして社会と自分にしっかり対峙している美容師さんがいる。そういう人たちの話を、今、世の美容師さんたちは聞きたいと思ったんです。

小さな価値を提供する出版社

西田

1回3000部とかミニマムな出版社をされてますよね。マジョリティーを取るという発想ではなくなってきているということですか?

三根

去年の3月までいた大手企業の美容サービスは、圧倒的にマジョリティーをとるために行動していました。莫大なお金が動きますし、事業として素晴らしいと思いますが、1人で会社を立ち上げて、小さい本を小さいところで売るというところで、お金は事足りるんじゃないかと思ったんです。1万部売るのではなく、3000部、5000部を読みたい人にちゃんと届ける。著者は印税が10%程度ですが、自分の本を版元(出版社)として売れば大体70%が入ってくる。フリーの編集やライターより、自分が版元になる方が、自分の利益になりますから。

西田

ある意味、音楽業界で言うとインディーズみたいなものだね。本へのこだわりもあるでしょう。紙とか手触りとか。

三根

本は本としてではなく、「雑貨」として売ろうと思ってます。飾れる本、所有物としての価値を持たせることで読み物以外の価値をつける。書店さんには現在150店舗ぐらいに卸しています。集客力があって、髪とアタシの美意識を共有していただける場所だと1店舗で何十冊って置いてくれる。世の中に書店さんは1万4000軒ぐらいあって、自分がつくった本を読んでくれそうな人が集まってくる書店さんに飛び込んで行くと、意外にも、「置いてあげる」と言ってくれるケースが多いんですよね。小さい価値を3000とか、5000とかって人たちにちゃんと提供して対価を得られると満足できるなって思った。インディーズバンドを一人でやっているという感覚がしっくりきます。新作ができて、刊行イベントを打って、手売りで売っていくような。

自分の思いを形にする

西田

本当に好きなら間違っていてもファンは待ってくれますよね。ロックバンドの「サンタナ」って、4年に1回ぐらいしかアルバムを出さなかった。それで2回連続で外したりするのって、ファンの望むものではないチャレンジだったんでしょうね。ファンはそれでも待ってくれる。だってサンタナが好きだから。いまテレビの世界は、それがないのかなぁ。視聴率を取るための方法論や方程式は恐ろしく発達して、ほとんどの番組は間違っていないんだけど、視聴率があがらない。なぜ?間違ってないのに。実はそれは間違っていないからだと思うんですよね。昔のフジテレビでは、30分ぐらいタケちゃんマンやってたりとか、今からしたら“大間違い”オンパレードやったんじゃないかなあ。クリエイティブってみんなの「正解」を探すことではなくて自分の中にある確固たる「信念」をもって突く進むこと。だから、大衆の前では「間違い」であることも多いんだってことをもっともっと大切にしないといけないなって、最近「間違う」ことをずっと考えてます。

三根

あの当時の人たちは、作為的に間違えていたんですか?

西田

いやぁ、自分にとっての「正解」が今から思えばいい意味での「間違い」だったのだと。当時のレジェンドのプロデューサーの方たちとちゃんと話をしたことがないですけど、自分たちでその時代の道を切り拓いてきたから“大人”から違うぞって言われてなかったんじゃないでしょうか? 企画作りましたって言って、いろんなひとから「これ分からない」と言われ書き換えたりすると、考えが中和してしまって焦点がぼけるというか、誰の責任で、誰の魂がこもっているのか分からなくなってしまうでしょう? そんなことは昔は少なかったのかなって思うんです。

吉里

僕もそういうことを考えていて、でかくなると議論を重ねてつまらなくなってしまう。それが若者だとか時代がとか言うのは違う、組織の決め方が明らかに違うと思っている。

会社にいないように

西田

僕は50歳で、営業を経験したんですが、しっかり形になるまでは自分の中でプランを温めて結果を報告します。経過を報告するとその時点で新しく取り組もうとしていることの軸が「いい」「悪い」でぶれちゃうかもしれないから。それはそれで、先輩たちにもご迷惑かけてるなって思います。部下も部下で、自分たちのリズムでおおらかに仕事してほしいから、無闇に報告を求めないようにしています。デスクを離れて飛び回る「動く部長」だから、話す時間も間々ならない。メールだってちゃんと返信できない、そんな「いい加減」な僕ですが、結果みんなが自覚的に仕事をこなしてミスなんかも減った、というかみんな自分たちで処理してるんでしょうね(笑)とにかく、組織に帰属して「やらない」理由ばかりで、物事を前に進めない「若手じじい」にみんなになってもらいたくはないんですよね。

吉里

僕も、チェックしないように、会社になるべくいないようにしています。R不動産の営業は10人全員業務委託で、売り上げがゼロだったら、ゼロ。僕も彼らとフラットな関係で、そうすると勝手に会社の中で会社が生まれる。うちの社内は、4つぐらいの会社ができている。お金も管理して、オフィスをシェアしていて、新しいプロジェクトが生まれる方が楽しいですよ。

三根

嫁がデザイナーで、僕が編集と写真をやって、「最小単位の出版社」って言っているんです。誰にも介入されないようにやっていて、合っているのか間違っているのか分からない。イレギュラーなこともたくさんあって、美容師さん向けでやっているのに、買っている人の半分は美容師さんじゃないんですよ。ダンススクールやっていた人がもう一度美容師になりたくて仕事を辞めたりとか、映像作家やっている27歳の男の子が映像をやめて美容学校に通っているだとか、想定していなかったことが起きていて、それが面白い。この前、高校生が「髪とアタシ」を鞄に入れていたと、親が勝手にインスタグラムに掲載していた。そういう反応が、美容界の外側で行われてきて、じわじわと美容のカルチャーができてきたら、すっごいおもしろいと思うんですよね。

吉里

うちも共同代表で、どちらが上か下かではなくパラレルでやっている。お笑い芸人の相方っていう感覚で、面白くないことを相方が言っていたら、面白くないよってつっこむ。一番の理解者で、一番のライバルって感じ。

西田

サラリーマンって組織にいても一人稼業。ダウンタウンに会ったときに、絶対に離れない、役割もしっかりしているパートナーシップをみて、これだよなって思いました。お互いが認めている部分もあるけど、タイプが違うから反発したい部分もあるでしょう。そんな関係を仕事の上でも構築できたら素敵なんだと思っています。僕は、たまたま「ダウンタウンDX」をやる時に先輩がそのパートナーでしたね。お互い、全く価値観や趣味が違うんだけど、大阪から出て来て日本中をアッと言わせたいことは共通で。だから、職場は離れても今でもかけがえの無いパートナーだと思っていますよ。

走りながら考える

三根

美容学校で新しい働き方みたいな講義を持っているのですが、20歳ぐらいの子たちと話をすると、将来はこういう美容師になりたいとか未来の話はいっぱいあるんですけど、今何をやりたいのって聞くと出てこない。今から何かをやって拡張していけばいいじゃないですか。やりながら考えることができなくなっている。僕は走りながら考えるということで生きてきた。正直、5~10年後何をやっているかなんて分からない。

西田

僕は、木曜10時の枠で新しいバラエティの形を探り、価値を削りだして積み上げていきました。東京のキー局が持っている予算なんて望むべくもなく、パフォーマンスは同じものを求められる。普通の戦い方では無理なのでゲリラ戦が主。東京のテレビ局は釣りでいうと大きな竿を持って、遠くに投げて大物を狙うような作り方。僕らは大きな竿を持っていないし、体力もないんで、防波堤の近くでコソコソやる。実はそこにも魚がいて、よく釣れたりもするでかい竿って、近いふちではやりにくいからキー局の人は分かっていても僕たちのやり方をやらないでいたんですよね。最近魚が釣れなくなってきて、キー局も小技を効かせないといけなくなったんかなあ。魚がいる場所が変わってきているんです。

浸食されない表現を

三根

ネットフリックスとかHuluとかあるじゃないですか、まったく見ていなかったんですけど、アニメの「おそ松さん」を見逃して、Huluのためにテレビを見るようになって、面白いなって思っています。

西田

ネット配信については、気持ちをつかめるコンテンツを配信できるかに尽きると思う。何百億円をかけたから面白いっていうわけではないし、10万円でも死ぬほど面白いものもできるかもしれないし。スティーブン・スピルバーグが無名時代に作った「激突」っていう映画は、主人公が大きなトレーラーを追い越したら、追いかけられるドキドキする内容で、そのトレーラーの運転手の顔を映さないんですよ。ただただ逃げるだけのテレビ映画をすごい低予算で仕上げて、人の心に残るものになった。低予算でもいいから誰にも侵食されないような表現をしていく強い意志、忘れないでいたいですね。

美容院をポータルに

西田

2人の野望は?

吉里

地方の廃校や使わなくなった町役場とか、結構多いんですが、貸す方と借りる方のマッチングができていないんですよ。最近地方創生とかで、役所から問い合わせがくるようになって、使われてない市営住宅の再生計画の企画書を書いて、やりたい人を集めてみたら結構反響があったんです。行政の人と接していると意外とできると思うんですよ。やりたい人を集めたいと思っています。

三根

美容院を最強の小売店にしたいですね。雑誌の営業をしていて、お客さんに売れるからと、物販で売ってくれるんです。アシスタントって美容師としての技術売り上げがほとんどないから、シャンプーとか売らないといけない。売った商品に対してインセンティブを出している美容院もあります。まだ一人前になっていなくても、トークと熱意でお店に貢献できる余地は存分にあるんですね。
普段、自分が定期的に行く場所って、病院かカフェか美容院ぐらいで、担当の美容師の名前は言えるでしょう。信頼する美容師だったら買ってくれる関係性がある。サロンの駐車場にベンツを置いて、それを販売しているという情報を聞いたことがある。髪を切りながら、車の話をして売るって、素晴らしいですよね。もちろんいろいろな免許や検査も必要だと思いますが、美容院にいる時間を違う「価値」に変える発想が必要だと思うんです。カラーとかの時間ってひまじゃないですか。その時間を有効活用すれば、技術ではなく売り上げを伸ばすこともできる。

吉里

美容室って全国津々浦々ありますからね。

三根

そうなんですよ。美容院って、コンビニやポストより多いんですよ。美容師は40万人いるんです。これまで本は本屋に置いてあるものだと思っていた。それが、実は本が何百部か美容院で売れればけっこう面白いと思う。新書の初版って大手でも数千部で1万部売るのが大変。美容院で2000〜3000部売れたら出版業界の人たちは驚くと思うんです。美容院の中に書棚を作って、ビューティーやコスメ、ダイエットなどに関する本を作って売れないかなって。

吉里

美容院で家を売りましょう!

三根

引っ越したときに必ず美容院は探しますよね。そこでおいしいお店を聞いたり、いろいろな情報がでてきたら面白い。美容院というインフラがあるので、そこが情報の発信基地になる。

西田

化学反応が起きて、どうなっていくのか楽しみですね。

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