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Gプレスインタビュー

2012.August | vol.111

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テレビのパワーを正しく評価するための手法開発の重要性

株式会社電通
プラットフォーム・ビジネス局 開発部

前川 駿 さん

まえかわ・しゅん
2006年電通に入社。1年間、新聞局にて毎日新聞社及び臨時物広告を担当の後、2007年からメディア・マーケティング局・コミュニケーション・デザイン・センターを経て、現局。2007年より既存の広告枠セールスや放送局/新聞社の新規ビジネス開発支援を目的とした分析・プランニング業務及びその汎用化・システム化を担当。Web 計測ツール SiteCatalyst 導入支援認定OCSD取得。

かつてテレビ番組はお茶の間で見られるものであった。それゆえに、「視聴率」という指標でテレビ番組の視聴傾向をみることができ、その数値は広告ビジネスにおけるCMの価値指標として機能してきた。しかし、タイムシフト視聴の習慣も徐々に一般化し、1つのテレビ番組が、PC、モバイル端末といったテレビ以外の様々な端末でも視聴されることが増えてきた現在、「視聴率」という指標だけでは必ずしもテレビ番組の視聴傾向全てを表すものではなくなりつつある時代になったのである。それはひいては、「視聴率」だけを見ていては、テレビ広告効果を正しく把握できない可能性をはらんでいる。そんな時代、広告クライアントは何を頼りにすべきなのか。株式会社電通前川駿さんの講演をダイジェストいたします。(2012年7月27日 電通ホールでの公演より)

―「テレビ離れ」は表層的な現象。

 数年前から「テレビ離れ」ということが言われていますが、本当にテレビ番組が見られなくなったのでしょうか。確かにHUT、PUTは2005年度以降減少傾向にあります。特にM1、F1層のPUTが減少しています。しかし、一方で、意識ベースで1日の行動に占めるテレビコンテンツに対する接触時間を見てみますと、2005年以降むしろ増えている傾向にあります。これは、テレビのパワーが散在及び変質であるためだと考えています。散在とは、テレビ受像機以外の端末を通じて、テレビ番組関連のコンテンツに接触する機会が増えていることです。変質とは、ユーザがソーシャルメディア上に番組内容を文字情報に変換し、番組の話題が拡散していくことを指しています。これらの価値は、指標化(いわば、見える化)されていないだけであって、テレビ番組のパワーは健在であり、決して人々の生活そのものから「テレビ離れ」が起きているわけではないということを示していると考えています。

―散在・変質するテレビのパワーを可視化することの重要性

 問題は、そのパワーを測るために現行の視聴率をどう補足していくかが難しいことです。先程申し上げたとように、新たに計測の対象としなければならないのは、①視聴の散在化に対応し、テレビ受像機以外での視聴量の計測②視聴の変質化に対応し、視聴者によって文字情報化・加工されたテレビの話題感の計測の2つだと考えています。①テレビ受像機以外の視聴量の計測は、大容量記録メディアの普及と、インターネット上の様々な非公式コンテンツの台頭によって、ますます追跡が難しくなってきている傾向にあります。②の好意的な話題性、期待性を表すソーシャルメディアの書込み行動は、オンエア前からネット上で盛り上がりますし、オンエア後もネット上で話題となり様々な二次情報が交わされます。このこと自体は、番組制作者や番組提供社にとっては一般的に望ましいことではありますが、それがある指標をもって、フィードバックされるには至っていません。
 この問題は、日本に限ったことではありません。欧米の大手メディア会社、リサーチ会社、広告クライアントが一同に集い、テレビ視聴に関する新しい指標整備について協議する“Audience Measurement”という会議があり、本年度のテーマは、“Measurement Crisis”でした。消費者、放送局、広告主が納得できる適切な指標を構築していかなければ、テレビ広告ビジネスは循環していかないという危機感を、欧米各社も抱いています。
 日本でも、簡単なことではありませんが、今後、コンテンツの新たな収益化の取り組みのために現行の視聴率を補足するということが求められる時代になってきています。

―指名視聴の時代、リアルタイム視聴誘導のためには電子番組表がカギを握る。

 前半・中盤では、ひとことでいうと、リアルタイム視聴以外での視聴や話題を可視化し、ゆくゆくはCMの価値評価指標に加えていくことの重要性を申し上げてきましたが、一方で、CMの価値を高めるために、リアルタイムの視聴の量を維持し、価値を高めることにも取り組む必要があると考えています。番組コンテンツの価値計測が難しくなっていることは、言いかえればテレビ番組の視聴動線が複雑化していると言えます。つまり、「従来通りの手法ではリアルタイムの視聴率がとりづらくなっている」、「素晴らしい番組であっても、必ずリアルタイムで見てくれるという時代ではなくなった」ことを示しています。それを端的に表す事実があります。この5年間でテレビの視聴スタイルが変わった点の一つは、「なんとなく視聴する」スタイルが減り、「予め見る番組を指定して」見る視聴が増えつつあることです。家に帰ったら特に何を見るという訳ではないが「とりあえず」テレビ受像機をつける…そういった生活習慣は、少しずつ減ってきています。このような制作側で視聴させるための誘導・制御方法も複雑化し、視聴者が”指名視聴化”している時代においては、テレビ視聴中以外の場での番宣活動がますます重要になっていると考えています。いかにオンエア直前・中・直後に番組情報に接触させ、関心を抱いてもらい、指名視聴までもっていけるかということです。そこでカギを握るキーワードのひとつが電子番組表です。
 表は、バラエティ番組の視聴率に電子番組表がどれだけ影響を与えたかという相関性をデータにしたものです。放送直前に番組情報に接するほど視聴率への貢献が高く、また浮動視聴が多い深夜帯ほど貢献度が高いことがわかります。すなわち、視聴率を左右する「浮動層の指名視聴化」のために、電子番組表で、視聴者の注目・関心を引くための手法開発が、今後より一層テレビ番組の視聴動線が複雑化していく世の中においてますます重要になってきていると考えています。


 テレビCMの価値をより可視化すること、電子番組表で視聴者を喚起させる手法を作ることといった「テレビのパワーを正しく評価するための手法開発」に対して、広告会社としては何ができるか、何が求められるかを地道に、丁寧に考えていきたいと思っています。

―本日はお忙しいなか、貴重なお話をありがとうございました。

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