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Gプレスインタビュー

2012.September | vol.112

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ローカル放送局は
恵まれている、という話。

北海道テレビ放送株式会社
エグゼクティブ ディレクター

藤村 忠寿 さん

ふじむら・ただひさ
1990年北海道テレビ放送(株)入社。東京支社編成業務部でCMデスク業務を5年間勤めた後、本社制作部に異動。96年にチーフ・ディレクターとして「水曜どうでしょう」を立ち上げる。2003年からは同番組のDVD化を始め、現在までに18本を制作、累計450万枚以上の売り上げを記録。2008年からは、ドラマの演出を始め、09年のドラマ「ミエルヒ」は、ギャラクシー賞など数々のドラマ賞を受賞。

よみうりテレビ西田二郎さんを皮切りに、今のテレビ番組制作を支えている方たちにインタビューをしていくGプレス2012サマーセッション。第3号目は、前号フジテレビ宮道治朗さんに続き、北海道テレビ藤村忠寿さん。ローカル番組としては異例の大ヒット番組『水曜どうでしょう』はじめ、数々のドラマも手がける藤村さんは、プロデューサー、ディレクター、出演者…1人何役もこなすテレビマン。ローカル局で番組を作る藤村さんから見て、今のテレビ業界、番組づくりはどう映っているのだろうか。

―前回、フジテレビ宮道さんに「フジテレビらしさとは何か」といった話を伺いました。藤村さんにとって「北海道テレビらしさ」とは、どんなことになりますか。

 北海道テレビに限らず、ローカル局には、全国ネットの番組とはまったく違う論理で番組作りができる醍醐味があります。それは、醍醐味だけではなく、使命でもあると思っています。番組制作はキー局からはじまり準キー局、ローカル局へというグラデーションで語られるものではありません。それぞれの局がそれぞれの独自の形をもっている。キー局さんが「本流」であるならば、我々は「脇道」。でも、それは本流に対する劣等感で申し上げるのではなく、「脇道だからこそ、堂々と自由にできることがある」という完全にポジティブな意味での「脇道」です。我々の場合、全国ネットにのらない番組をいかに作るか、ということにかかっているということです。

―具体的にはどういうことですか。

 たとえば、ちょうど先日一つのドラマを作り終えたところなんですが、我々としては、かなりいいドラマが出来たという自負があります。震災後の日本に対してメッセージしたかったことをかなり濃厚に伝えることができたかな、と。でも、全国ネットにのるドラマではないんです。なぜなら、キャストも個性的すぎますし、ロケもすべて道内、内容もどちらかといえばわかりにくい。ほとんどのことが、全国ネット番組の逆を行っているわけで。でも、我々が作る番組はそれでいい、それがいいと思っています。

―とはいえ、視聴率といった「数字」は気にならないのですか?

 そこですよね。私は断言しますが、視聴率はまったく気にしていませんし、ローカル局は気にする必要がないと思っています。「視聴率を気にする」こと自体、全国ネットの論理なのです。全国ネットの番組とローカル番組とではスポンサー料の桁もちがいますから、全国ネットの番組が視聴率にナーバスになることはやむを得ないことです。でも、そこに我々ローカル組まで同調する必要はないと思っています。正直、視聴率が数%違ったからといって、ビジネス的にもほとんどインパクトありません。視聴率を気にすれば、キャストを気にする、内容のわかりやすさを気にする、話題性をつくる演出を気にする…となり、制作者がメッセージしたいことはどんどん後回しになっていくわけで、我々ローカル局は、ビジネスの論理に振り回されず、自分たちの信じるものを作ることに専念すればいい。つまり、我々ローカル局の制作は、この点で、ものすごく恵まれているということです。

―「視聴率を気にする必要ない」とは、なかなか大胆なお話ですね。

 これは、若い人たちのためにも、誰かがきっぱり言わないといけないと思うんです。でも、「本流」の人たちは言えません。心の中では思っていても、立場的に言えません。だから、私のような「脇道」にいる人間がきっぱり言うべきなんです。今「テレビがつまらなくなった」とか「似たような番組ばかり」とかいう批判がありますよね。そこに風穴をあけられるのは、まさに視聴率を気にしなくていい「恵まれたローカル局」の役割だと思います。キー局は見ていて可哀想ですよね。世の中や広告クライアントが、もはや視聴率といった数字で番組の価値を計っていないにも関わらず、いまだにその古い指標に振り回されている。不自由で、時代遅れと誰もが思っていても、それに代わる指標がない限り、振り回されざるを得ない。それに対しては、ローカル局は、自由に時代に機敏になれる身軽さがあると思います。ただ、出来る人間が何人いるかだけなんです。

―藤村さんと同じような意識を、ローカル局のみなさんは持たれているのでしょうか。

 残念ながら、そうとはいえません。ほとんどの人は「ローカル局は恵まれていない」と思っているでしょうね。番組制作費が低い、よって著名なキャストも起用できない、大規模なロケも行えない…だから恵まれていない、と。「お金がない=恵まれていない」という考え方自体、東京の論理だと私は思います。東京の次は大阪、名古屋…といった人口規模に比例した価値の序列、動くお金の大きさに比例した価値の序列―番組制作者は、そこを一人一人が脱却しないと、それこそテレビ業界全体が地盤沈下しかねないでしょう。いい番組を作るために一番不可欠なことは、「人間関係」「信頼関係」です。この点については、キー局もローカル局も同じはずです。つまり、「いい番組が作れる環境」とは、「いい人間関係を築けた環境」であって、決して「制作予算が大きい環境」次第ではないのです。

―藤村さんにとって「いい番組」とはどういう番組ですか

 一義的ではありませんが、私が一つの基準としてもっているのは、「長く続く番組はいい番組である」といえると思います。なぜなら、長く続く番組は「いい人間関係」を築けている番組だからです。だから、西田二郎さんの『ダウンタウンDX』とか見ているとすごいなぁって思います。相当な人間関係を築けていないとあそこまでの長寿番組にはなりませんから。私がやっている『水曜どうでしょう』も、6年間やりましたが、視聴率でいいましたら1%とか2%とかの時もありました。それでも私は、数字とるための妙なテコ入れとか一切せず、一貫して、大泉と好き勝手にやっていく感じを大事にしていました。この番組自体、私たち制作スタッフと大泉ら出演者との人間関係のうえに成り立っているわけで、そこはブレてはいけない部分ですから。結果、視聴率もついてきましたし、6年の放送が終わったあとでもDVDが毎回10万枚も売れているんです。ちょっと自慢ですけど(笑)。
 実は、そこに、ローカル局の活路があるのかな?と。視聴率にこだわるだけだったら、二次的なセールスに広がらなかったんじゃないかなと思うんです。信じて伝えた結果がテレビの視聴率ではないところで評価を受け、新たな展開を生む、これって電波のもうひとつの健全な形じゃないですか?

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