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Gプレスインタビュー

2012.November | vol.114

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「番組」づくりは「料理」と似ている、という話。

株式会社テレビ朝日
編成制作局 制作1部
演出・プロデューサー

加地 倫三 さん

かぢ・りんぞう
1969年3月13日生まれ。神奈川県出身。
上智大学卒業後の1992年にテレビ朝日に入社し、スポーツ局に配属。 96年に異動し、『ナイナイナ』『リングの魂』を担当。
現在は『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』の演出・プロデューサーを担当。 最近では『俺たちが司会者!!』『もしも…さんまさんだったら?』『ザキヤマが来るーッ!!』などの単発番組も演出。

よみうりテレビ西田二郎さんを皮切りに、今のテレビ番組制作を支えている各局の方たちにリレー式でインタビューをしていく、Gプレス2012サマーセッション。気候はすっかり寒くなるも、ますますヒートアップ。第5号目は、『アメトーーク!』『ロンドンハーツ』といった長寿ヒット番組を手がける、いま日本で最も注目されているテレビマンの一人、テレビ朝日の演出・プロデューサー加地倫三さん。2009年3月号以来3年ぶり2回目のGプレス出演となる加地さんに、テレビの今と未来についてお話をきいてみました。

―『アメトーーク!』も『ロンドンハーツ』も、毎週毎週高い数字をキープするのは大変なことだと思うのですが、単刀直入に、長寿ヒット番組を作る秘訣って何でしょうか?

 ひと言では言えないですし、言えない秘密の部分もありますが(笑)、 当たり前ですが「視聴者を飽きさせない」ことです。そのために、いい企画はできる限りリピートしないようにしています。ある企画が当たっていい結果(視聴率)が出たとします。そしたら、その企画はできる限りリピートせず、リピートするとしてもなるべく間をおくようにしています。

―ともすると、逆を行きたくなりますよね。当たった企画は、よしこれで攻めよう!とリピートしたくなったりしませんか。

 それをやると、せっかくのいい企画の賞味期限を短くしてしまいます。いい企画を長持ちさせたければ、「年に数回しかやらない」ぐらいでちょうどよく、数字が出て調子のよいときに、どんどん新しい企画を試してみる方がよいと思っています。野球のピッチャーのローテーションと同じ。エースが投げて勝った。また勝ちたいからと言って中2日でエースを使うと、疲労がたまったり、相手の目も馴れて、打たれてしまったりする。勝っているときに、どんどん新人ピッチャーに投げさせる。負けたっていいと、新人に思いきり投げさせると、思いもよらない快投をする奴が出てきたり、人材も育っていく。これ以上負けられないとなったら、満を持して勝てるエースを投入。番組もそういうやり方をしていけば、ロングランで戦っていけます。

―「長く続く番組」が「いい番組」である、と。

 はい。自分はそれがすべてだと思っています。『アメトーーク!』と『ロンドンハーツ』に関しては永遠に続けたいと思っています。極論いえば、この番組は芸人たちの人生も背負っているんだ、と思っていますから。この《Gプレス・サマーセッション》に出演してきたプロデューサー、ディレクターの方たちも、みな同じはず。『ダウンタウンDX』『水曜どうでしょう』『モヤモヤさまぁ~ず2』…みな「人と組む」番組です。人を芯にして、番組の芯を作る。でも最近減りましたよね、そういう番組。企画があってからMCを誰にしようか・・・極論を言えば誰でもいいような番組、目先の数字獲得にとらわれ過ぎて、芯のない番組が増えた気がします。

―加地さんは、数字(視聴率)はあまり気にしないのですか?

 そんなことありません。ただ、『アメトーーク!』と『ロンドンハーツ』とでは、時間帯が違うので考え方を分けていまして、前者は基本的に数字を気にしません。後者は悪かった時に気にします。良かった時は無視、悪かった時は「自分たちでは面白いと思ったことが視聴者にとって面白くなかったのはなぜだろう?」と反省します。

―悪かったときは、何かが足りなかったり欠けていたりするのですか?

 番組の「本質」の部分ですね。芯といいますか、哲学といいますか。僕も実は『ロンドンハーツ』で一度地獄を見たことがありました。安泰だなと思っていた企画が4,5本あったにもかかわらず、あるときから何をやっても数字がとれない。10週シングルが続いたんです。そこで、わかったことがありまして。それらの企画には、『ロンドンハーツ』としての芯が欠けていたんです。芯が欠けていると、どんなに奇抜なことをやっても視聴者はついてこないんだということに。

―『ロンドンハーツ』の芯は何だったんですか。

 ドキュメンタリー性。そこが、視聴者が期待している部分であり、ロンブーにしかできない部分だったりするんです。

―番組を長く続かせるには「芯」が大事である、と。

 料理で言えば「だし」みたいなもの。基本となる「だし」をしっかりとれていない料理は、いくら見栄えがよくても物足りない。数字が落ちると、見栄えの問題かなぁ、塩味が足りないのかなぁ、宣伝の仕方かなぁ…そうやって右往左往するだけで、実際はただ芯のない番組というだけ。それは、短命で終わるはずです。

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―確かに、「だし」のとり方をきちんと習得していない料理人は、見栄えとか調味料とか宣伝で勝負するしかなくなりますね。

 だから、若いうちは、数字を気にしなくていい深夜帯でしっかり基本である「だしのとり方」を身につける-少し前まではそれがテレビ界の伝統だったわけですが、最近はその伝統さえも崩れつつあります。深夜でも数字を求められ、盛り付け方を工夫しろとなる。可哀想と言えば可哀想ですよね。

―それは、どうすれば改善されるのでしょう。

 端的に言えば、「上」が変わらないとダメなんじゃないですか(笑)。自戒も込めて申し上げますが。若い人に変われというのは酷ですし、状況的に無理ですよね。「だしのとり方」をろくに身につける前に、数字をとれ、そのためには盛り付け方を身につけろと言う「上」に問題があると思います。あまり言いすぎると上に怒られちゃいますが(笑)、おそらくテレビ業界だけでなく、どんな業界にも多少なりとも当てはまるのではないでしょうか。数字や結果ばかりを求め基礎や哲学の部分がなおざりにされる傾向が、世の中全体に蔓延している気がします。

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