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Gプレスインタビュー

2013.May | vol.118

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今のテレビは「カラオケ」と似ている、という話。

株式会社TBSテレビ  メディアビジネス局
デジタルコンテンツ制作部長

合田 隆信さん

ごうだ・たかのぶ
1967年生まれ 石川県出身
1990年TBS入社、バラエティ制作に配属。『さんまのからくりTV』 『うたばん』などのディレクターを経て、1997年より総合演出として『学校へ行こう』『ガチンコ!』などを手がける。2002年よりチーフプロデューサー、編成部などを歴任し『リンカーン』『ひみつの嵐ちゃん』などを立ち上げる。2012年4月よりデジタルコンテンツ制作部長。

オンラインメディアの繁栄に伴い、この10年で、テレビを取り巻く状況は大きく変わった。特に、若者がテレビを見なくなったといわれるが、そもそも生まれたときからPCや携帯等のメディアが日常生活の一部として存在していた世代にとって、テレビはあくまで複数ある情報端末の一つでしかないのかもしれない。一方、現在テレビ番組の制作を担うプロデューサー、ディレクターたちは、テレビが唯一絶対の情報、娯楽メディアだった時代に幼少期を過ごしてきた人たちが多い。ここに、一つのジェネレーションギャップがある。今そしてこれからの視聴者に対して、テレビはどう向き合うべきか。『ガチンコ』『学校へ行こう』等、数々のヒットバラエティを手がけてきたTBS合田隆信さんにお話をきいてみました。

 【西田】 1年前、合田さんが制作からデジタルの部署に異動されたときいたときは、ちょっと驚きましたが、1年経って、何か見えてきたことはありますか。

 【合田】 当初は、私も驚きました。何せ、名刺にメールアドレスを載せず、パソコンは指一本で打っていた人間でして、デジタルという世界からは社内で一番遠い所にいる人間である自信はありましたから(笑)。でも、1年経ってみて、いろいろな発見がありました。制作にいたときは、モヤモヤしていてよく解らなかったことが、「あっ!そういうことだったのか!」と氷解したり。そういう意味で、ここにきてよかったと思いますし、新しい視野が広がったなと感じてますね。

 【西田】 その「氷解したモヤモヤ」について、具体的にきかせてください。

 【合田】 制作の時、ここ数年ずっと抱いていた疑念がありました。うまく表現できないんですが、以前のように“ガチっと”番組が視聴者に届いている「実感」がなくなってきたんです。見られてはいるのは視聴率でわかるんですが、何かフワフワーとしてるというか(笑)。と申しますのは、以前は、視聴率は発表される前に僕は予測できたんです。ほとんど外れませんでした。自分で作った番組も、そうでない番組も。それが、外れはじめたんです。「えっ!この番組、これしか数字とれてないの?」、あるいは「この番組が、こんなに数字高いの?」と。それで、これはもう「テレビ」そのものが、自分が思い描いている「テレビ」とは違うものになっているんじゃないか、という疑念が生まれてきたわけです。

 【西田】 それが「モヤモヤ」だったんですね。

 【合田】 はい。テレビの位置づけが、自分が思っている位置づけとはズレているに違いない。でも、どうズレているのか、ズレの原因も解らなければ、ズレの解消方法もわからない。そんな状態のまま、それでも日々自分を信じて、自分がいいと思う番組を作り続けるしかなかったわけです。数字はある程度とれていましたが、ずっと「原因不明の微熱に悩まされながら健康なふりをして生きている」といった状態でした。

 【西田】 それで、今の部署に移ったことにより、その熱の正体が判ったわけですか。

 【合田】 大きく2つのことが判りました。一つは、「デジタルワールド」という特有の世界、コミュニティが存在し、そこに棲む人たちのカルチャーや価値観は、我々の世代やテレビ好きの人たちのそれとはかなり異質である、ということです。我々の世代の場合、人や情報が「縦につながっていく」世界であるのに対して、彼ら彼女らの世界は「横につながっていく」世界。このことが、テレビの視聴スタイルや向き合い方にも決定的な違いをもたらしているんです。我々の世代がテレビを見るときは、「テレビ=面白いもの」として、見る以上は、集中して一所懸命見ますよね。テレビからの一方的な情報を全力で受け止めるという-これは、人や情報が「縦につながってく」世界です。一方、デジタルワールドの人たちは、そもそもテレビはいくつかある娯楽、情報端末の一つでしかないので、そんなに集中しては見ません。でも、時々自分に関心のある面白いことがテレビで放映されていると、その場ですぐソーシャルメディアを通じてシェアし合う。-これは、人や情報が「横につながってく」世界です。この部署に来る前までは、後者の世界の人たちの実態を、僕は掴めていなかった。前者タイプの視聴者しか掴めていなかった。だから、視聴率が当たらなくなったんです。

 【西田】 もう一つわかったことは、何ですか?

 【合田】 「カラオケ理論」と僕が勝手に名づけている理論。先ほど申し上げた「縦につながっていく世界」と重なる話ではあるのですが、デジタルワールドで育ってきた今の若者たちにとって、「テレビ」の存在感は、「カラオケボックスのカラオケ」の存在感と等しい、ということです。彼ら彼女かがカラオケボックスに行く理由は、「歌を歌いたいから行く」わけではなく、みんなでわいわいするための「ちょうどいい場所」としてカラオケボックスに行きます。言ってみれば、カラオケはメインではない。でも、サブかというと、そうでもない。カラオケがないと盛り上がらないから、カラオケの存在は必要。カラオケボックスに入っても、1人1人の熱唱を聞き入るという我々おっさん世代のカラオケとは違い(笑)、歌は場を盛り上げる演出ツールみたいなもので、食べたり飲んだりしながら、だらだらわいわいやっている。彼ら彼女らにとって、「テレビ」も同じような存在なんです。だから、決して「テレビを見ない」わけでもなければ、「テレビなんて要らない」とは微塵も思っていない。ただ、我々の世代のように「熱狂的に視る」ことをしない。だから、僕から見て「こんな薄味の番組がなぜこんな高い視聴率なの?」「こんなに素晴らしい番組がなぜこんな低い視聴率なの?」という現象が起きていた、ということなんです。

 【西田】 合田カラオケ理論。無茶苦茶わかりやすくて、腑に落ちる話ですね! それで、テレビがカラオケ的存在になることによって、番組の作り方って変わるでしょうか?

 【合田】 そこですよね。僕もそれをここのところずっと考えていまして、実はまだ結論出せていません。変わるべきことと、変えてはいけないことと両方あるという曖昧な答しか言えません。一つ確実にいえることは、番組のPRツールとしてデジタルメディアをフル活用すべきであるということ。これをやらない番組は、デジタルワールドの人たちから完全においていかれてしまいますから。一方、番組制作そのものに関しては、どうなのでしょう。実は、新しい世代の人たちにバトンを渡せば自動的に変わっていくでしょうから、そこを我々の世代が議論したり心配したりする必要はそもそもないのかもしれません。最近のうちの例でいいますと、『リアル脱出ゲームTV』というヒット番組を作ったメンバーなんか見ていますと、僕らにはない素晴らしいアイデア力や感性を持っていますから。面白い番組を作る-そこの仕事は変わらないでしょう。

 【西田】 テレビが熱狂的に視られることがなくなってきたとしても、番組のクオリティを落としていいことにはなりませんからね。

 【合田】 その通りです。「テレビを見なくなった」という声が聞こえる一方で、「テレビは面白くなくてもいい」という声は聞こえません。むしろ、少しでも質が落ちれば、テレビがつまらなくなったと批判される。批判されるということは、期待されているということです。だから、決して手を抜くことがあってはならない。カラオケの話でいえば、第一興商さんはお客を喜ばせるために絶え間ない工夫をしていますよね。楽しい機能を次々と加えていく。「歌う機能さえ充実させればいい」と安座なんかしていない。そういう姿勢は、我々も大いに見習うべきでしょう。

―本日はお忙しいところ、貴重なお話をありがとうございました。

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