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Gプレスインタビュー

2008.May | vol.61

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いよいよNHKがVODサービスを始める、その意義とは。

NHK(日本放送協会)
放送総局 特別主幹

関本 好則さん

今年の12月から(予定)、NHKが、過去に放送した番組を、ブロードバンド回線等を通じて有料配信するサービスを開始する。放送後1週間程度の番組を配信する『見逃しサービス』と、大河ドラマやNHKスペシャル等の過去の名番組(アーカイブ番組)を配信する『特選ライブラリーサービス』。この2つのVODサービスを開始する背景には、どんな経緯や意図があるのか。NHK放送総局、会長特命プロジェクトも担当する関本好則さんにお話をうかがってみました。

―NHKがVODサービスを始めようと考えた背景についておきかせいただけますか。

NHKは、「映像の宝物」をいっぱい持っています。ビデオ・CS・ネット事業者へ数多くの番組を提供して来ましたが、NHK自ら視聴者・お客様にネット配信することは様々な理由で、できませんでした。それが、竹中平蔵さんが大臣になった頃から、事情が一転してまいりました。国のIT化を推進するにあたり、高速広帯域のインフラを整備したわけですが、このインフラを活用するためにNHKのコンテンツを積極的に出していこうというムードになったのです。

―つまり、NHKが新しい事業への試みとして始めるサービスというよりも、時代背景に押されて始めるサービス、という意味合いが強いわけですね。

そうです。私たちは、民放さんとは違いますので、新しいビジネスモデルをつくり何をやっても良いとういうわけにはいきません。たとえば、このVODサービスを行うにあたって、「放送した番組の二次利用しか駄目」「放送事業とは会計を完全に分離したサービスである」ことが大前提です。受信料を使ってはならない、NHKの電波を使って広告もPRもしていけない。さらには、赤字も黒字も出してはいけないということになっています(笑)。そういうすごい制約の中で成り立たせていかなくてはならない事業なわけです。しかも、民放さんであれば、直接番組には関係ない付随的なコンテンツや情報をインターネットで配信することは自由ですが、NHKの場合法律上それができず、利用できるのは過去に放送したコンテンツのみです。

―ただ、視聴者の利便という視点で考えれば、NHKがVODサービスを始めるということは、画期的なことですよね。NHKのコンテンツクオリティは世界的にも高いわけでして、それがVODで見られるようになるわけですから、私も、一視聴者としてはこのサービスをすごく楽しみにしています。

この『見逃しサービス』を最初に“考えた”のは、BBCです。イギリスでは、『キャッチアップサービス』っていうんですが。しかし、イギリスでは色々な議論の中で、すぐにサービス開始には至りませんでした。BBCも公共放送ですから様々な手続き、公共価値テストなどを受けている間に時間がかかりました。その間、実際にこの手のサービスを最初に“開始した”のはアメリカでした。そして、実際アメリカで始めてみたら、面白いことにむしろ個々のテレビ番組の視聴率が上がったのです。みんなTVに再注目し、テレビを見るようになったんですね。それを見た、他国でも積極的にこの手のサービスが行われるようになりました。

―そして、“日本もようやく”ということなのですね。どうして、日本はこれだけの「テレビ大国」でありながら欧米よりも動きが遅れてしまったのでしょうか。よく、著作権の問題が言われたりしますが、私見ですが、むしろアメリカ等の方が著作権に関しては厳密なイメージが強いですけれど。

それは、なかなか深いテーマですね。無論、アメリカにも著作権を規定する法律がありまして、内容的に見れば、日本のそれと大きくは違いません。ただ、大きく違う点があるとすれば、日本の放送番組は原則として放送のための許諾しか権利者から得ていませんが、アメリカの場合は当初の契約で番組製作者に権利を集中させていることだと思います。日本では、ネット配信をするためには改めて権利者から許諾を得ることが必要で、そのためのルールづくりなどに時間がかかって遅れた面があります。ただ、アメリカも脚本家組合がネット使用料の改定を求めて長期間ストをうち、この経済損失は2000億円を超える、という話も聞きましたので、そんなに簡単な一面的な話ではありません。

―ということは、これからも、日本では放送コンテンツのネット配信はなかなか進まないのでしょうか?

そんなことはないと思います。これは私見ですが、今、インフラもハードも、ものすごいスピードで進化していますよね。もはや「通信では流しちゃダメ」とか言っていられない時代になっていると思います。視聴者からしてみれば、通信だろうと放送だろうと経路はどちらでもよく、「良質なコンテンツが届く」ことが問題・関心のすべてなわけです。放送側の人たちには、「通信なんて…」と批判的に言う人たちもまだ中にはいますが、思い返せば、いつの時代も、新しい事象が始まるときってそうなんですよ。たとえば、テレビが世の中に出始めたときのラジオの人たちがそうでした―「あんないかつい箱、誰が見るものか…」と言ったりしていましたが、テレビへの流れは止まりませんでした。ハイビジョンもしかり―当初、「これは伸びない」と散々言われたりもしましたが、今やご覧の通り。放送コンテンツのネット配信についても同じことなのではないかと、私は思っています。

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