• シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rd(4)<br>伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rd(4)
伊藤隆行(テレビ東京プロデューサー)×米光一成(ライター)×佐藤ねじ(アートディレクター)

シェイク!Vol.13 どうしたら作れる、面白い企画 3rd の連載第四回は、佐藤ねじさん主導で話が進む回となりました。佐藤ねじさんは今回のシェイク!Vol.13の中で3つの企画発想方法を見つけたと語ります。その企画発想法とは一体? 本文中から答えを探してみて下さい。

ファクトベースと妄想ベース

佐藤

ゲームじゃなくて番組の企画だった場合、伊藤さんだったらヘモグロビンをどう落とし込みますか?

米光

無茶ぶりしたねえ。番組になるかなあ。

伊藤

なんないですね(笑)まあでも、ヘモグロビンだけをテーマにして番組を作ったほうがいい、という方向で考えますね。狭いテーマから入って、そこから何を展開してみせようかって考えるとわくわくします。この間も上野公園のなかにある韻松亭という、創業140年の会席料理屋に行ったんですよ。とても風情のあるお店で、外に桜の木があった。これは徳川家が愛でたと言われる桜なんですよってお店の方が言っていました。

米光

雰囲気よさそうですね。

伊藤

それで、酔っ払ってきもちよく帰ったんだけど、ふとね、そういえば上野公園には西郷隆盛像があるよな、と。上野公園と徳川家にはどんな関係があるのか。そしてなぜそこに西郷隆盛の銅像があるのか。きっと意味があって立っているはず。気になって調べてみたら、著名人の銅像は全国に4千体以上あるらしいんですよ。そしたら、銅像だけで番組が作りたくなってきて。

米光

いいですね。

伊藤

銅像を入り口にして全国をめぐった場合、最終的には立派な歴史バラエティになりそうだな、と。そういう発想なので、ヘモグロビンの場合、やっぱり人体に寄せる必要はあるのかもしれないですけど、ヘモグロビンだけをテーマにして作るでしょうね。専門的なことを面白い切り口でやるのが、ぼくの中では流行ってる。

佐藤

ぼくも銅像が気になってるんですけど、ぼくとは作り方がだいぶ違うなって思いました。伊藤さんはファクトベースで、真実を掘り下げていく。ぼくの場合、事実じゃなくて妄想が起点です。ファクトベースでリサーチをして規模を大きくしていくんじゃなくて、個人の妄想を突き詰めていく。裸体の銅像に下着をつけたら急にエロスが出るのかなあとか、みんな魔法にかけられて石化しているんだって設定にしたら物語が妄想できるなとか。ぼくが作るなら、たとえばARコンテンツにするのはどうかなって考えます。

伊藤

確かにファクトベースかもしれない。そのへんに転がっててふだんは気づかず通り過ぎているものを、拾い集めるのが好きですね。基本、日常から思いつきます。こんなことあったら面白そうだなって想像力を働かせながら物事を見ている。

米光

池とか銅像とか、身近にあるけど見過ごしているものをピックアップされたときの驚きって大きいよね。

伊藤

テレビって、そういう狭いところにフォーカスを当てることをそんなにやってこなかったんですけど、やってみると奥深いですよね。年もあるのかなあ。

佐藤

狭いところから入って、農林水産省の人に出会うところまで広がっているのも面白い。

米光

どんなテーマでもね、深堀りしていくといろんなことに繋がっていきますもんね。

伊藤

県境を一周するだけの番組とかやりたい。あの境目はきっと争いのあとじゃないですか。

米光

境目は面白いですよ。知り合いと区の境を歩くイベントをしたことがあります。公園はA区なんだけど、公園のなかの石碑だけB区だったりする。なんでもB区では毎月石碑のもとに集まる行事があって、ここだけはB区にしてほしいと。変な境いっぱいあるんですよ。工場の真ん中にある区境とか。

伊藤

オリンピック会場になる埋立地も揉めてますよね。江東区と大田区がね。

佐藤

ぼくがもし境目で作品を作るとしたら、やっぱりファクトベースじゃなくて、県境を変えたくなりますね。『Ingress』みたいな、位置情報を使った陣取りゲームにしたい。最初はリアルな県境から始まって、県の領域を増やしたり減らしたりして。

米光

現実の県境の上に仮想レイヤーがあって、千葉県が巨大になった日本がある、みたいな。

佐藤

それがニュースになる。「速報です、千葉県が大田区まで侵入しました」。

米光

「埼玉県が消失しました」とか。

佐藤

事実と地続きのフィクションを考えるのがぼくの発想法ですね。他にも、面白いものに出会ったときに、どう考えてこれを作ったんだろうって想像して、再現性のある発想法に書き直します。『池の水ぜんぶ抜く』を見て、じゃあ自分は何を抜こうかって考えるのは、発想法として使えないですよね。でも、たとえば「社会に役立つことをエンタメ側に持っていく」というふうに置き換えると、自分でも応用できる。
ロックマンのイメージですね。以前も話したように、ロックマンってボスを倒すとそのボスの技をもらえるんです。だから今日は3つの新しい発想法を手に入れました。「ファクトベース発想法」「変な主人公発想法」、あと「音の気持ちよさ発想法」。音の気持ちよさからだけで発想することはなかったので、それも面白いなあと。あとは、これも以前話しましたが、ブルーパドル発想法はよくやっています。ブルーパドルとは青い水たまりのことです。よく、戦略を探すときに、新しい市場、ブルーオーシャンを探そうって言われますよね。今だとAIスピーカみたいに、お金が稼げそうな新しいものは、当然みんなが参入してレッドオーシャンになる。

米光

巨大資本が入ったりしてね。

佐藤

だからすぐにやり尽くされてしまう。プロジェクションマッピング、みんながやってるからもういいよっていうふうに。

米光

うん。ひねりのないプロジェクションマッピングはもういいわー(笑)。

佐藤

だけど、小さなサイズの新しいやつならまだ残ってる。さんまさん×スポーツの組み合わせはもうあるけど、そこで伊藤さんはスポーツっていう大きな括りで見るんじゃなくて、解像度を上げてみた。スポーツを細かく分解して、審判がまだあるって発見した。ぼくも、小さな新しいものを一個でも多く見つけたくて。それで会社の名前をブルーパドルにしました。

[ 次回 企画書を強くするもの へ続く ]

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