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Gプレスインタビュー

2013.May | vol.119

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テレ玉は、番組の実験場であってほしい。

株式会社テレビ埼玉
東京支社次長/プロデューサー

遠藤 圭介さん

えんどう・けいすけ
1968年7月2日生まれ。埼玉県出身。
中央大学卒業後、ファッションショー演出事務所を経て、1993年テレビ埼玉に入社。 報道部、東京支社営業部、スポーツ局などを経て、10年に編成部長に。 東名阪ネット6共同製作番組「稲川大百怪」「フジログ」「方言彼女シリーズ」 「今夜野宿になりまして」のエグゼクティブプロデューサーをつとめる。 12年7月より東京支社次長となり、関東独立5局(5いっしょ3ちゃんねる) 共同製作番組「業界用語の基礎知識 壇蜜女学園」の企画を担当。 4月にはももクロ西武ドームライブの生中継を実現させる。

4月13日、西武ドームで開催された「ももいろクローバーZ」のコンサートは、テレ玉で生中継され、当日はもちろん前後日でも話題となった。岐阜放送、KBS京都、サンテレビでも放送され当コンテンツのリーチ力は、ツィッター、フェイスブック等での拡散をも加味すれば相当なものである。テレ玉のようないわゆる“独立局”と呼ばれる放送局は、キー局らが番組のビジネス価値指標として使う「視聴率」以上に、「番組収支」を重視する。放送内収入でスポットよりもタイム売上げが多いことがその理由だ。したがって、番組の制作、編成に関する考え方も異なる。それゆえに、キー局にはないチャンスや可能性が潜んでいることも確か。今回は、独立局からみたテレビの未来について、テレビ埼玉遠藤圭介さんにお話をうかがってみました。

 【西田】 4月のももクロコンサート生中継もそうでしたが、遠藤さんの仕事を見ていると、僕らにはちょっと無理だなぁといったことをどんどん仕掛けていますよね。これから面白い番組はテレ玉から始まるのではないか、というくらいの勢いを感じます。

 【遠藤】 そうおっしゃっていただけると光栄ですが、私たちにとっては、今になって特に新しい事を始めたという感覚はありません。私たちは、予算的な制約もあり、自社制作番組が33%、通販番組が27%、残り40%が他社制作の番組を購入するいわゆる調達番組という構成になっています。この比率は、大きく変わりません。私は、40%の調達枠が、テレ玉のステーションイメージを構築する、面白いチャレンジや新しいトライアルを行うことができるスペースであると考えています。他社制作の既存番組をリーズナブルな価格で購入するというのもよいですが、同じような番組構成をとっている東名阪ネット6(テレ玉、チバテレ、tvk、三重テレビ、KBS京都、サンテレビ)で製作委員会を立ち上げ、共同製作番組を作り、それを各局で放映するだけではなく、番販やDVD等のマーチャンダイズによる二次収入を確保しシェアしたりといった、フレキシブルな取り組みが可能です。

 【西田】 キー局ですと、時間枠という軸で番組のビジネス価値が大きく決まってしまいますが、テレ玉の場合は、どの時間で放映されたかということはビジネス的にもあまり関係ないわけですね。

 【遠藤】 その番組がトータルでどれだけ稼いだかが問題で、どの時間帯にオンエアしどれだけの視聴率をとったかがビジネスを左右するキー局とは基本的に考え方が違います。最近の成功例として『方言彼女。』という番組があります。「方言を話す女の子は可愛い」をコンセプトに、これも先ほど申し上げました東名阪ネット6で製作委員会方式によって作られた15分番組です。この番組は、20のローカル局等に編成していただきましたし、企業タイアップもうまく行きました。テレ玉での放映時間や視聴者数で言えば小さな番組かもしれませんが、視聴者ばかりでなく、複数の企業がコンテンツの価値を評価して頂いた事に、大きな喜びを感じた事例です。

 【西田】 視聴率という指標ではなく、どれだけ稼いだかを指標とする方が、ある意味シンプルですよね。キー局等ですと、この番組をタイムテーブルのどこに置くかということを問題にしてしまいますが。

 【遠藤】 もちろん私たちにとっても年に数回の視聴率調査の結果やタイムテーブルは重要です。その局のブランドを作る大事なものですから。私も入社以来、編成を含めて、営業・制作セクションと渡り歩く中、テレ玉のブランドってどうすれば作れるのだろうって考えていました。先ほど申し上げましたように、私たちの場合、現時点で自社制作番組は全体の3分の1が妥当な比率と考えています。予算もキー局から比べればとても小さな金額ですからエッジの効いた自社制作番組もなかなか制作することが出来ません。そんな条件下で、どうすれば「テレ玉らしさ」を作れるかを考えた結果、自社制作番組よりもコストの低い、調達を前提としていた40%の枠を工夫することで、何かできるんじゃないかって思ったんです。

 【西田】 遠藤さんが考える「テレ玉らしさ」って、どんなことですか。

 【遠藤】 私たちの存在意義からして、「埼玉の人たちが望むコンテンツを提供すること」が基本です。わかりやすい例を挙げれば、災害時の交通情報で、山手線や新幹線の運行状況をお知らせするキー局に対して、高崎線や宇都宮線の情報を詳しくお伝えするのがテレ玉らしさです。かといって、常に埼玉の情報やコンテンツだけ流していることが埼玉の人たちのニーズに応えることかというと、そんなことはありません。東京の美味しい店情報も知りたいし、地域色の無いドラマや面白いトーク番組だって見たいわけです。何か楽しい、面白い情報をテレ玉で知りたいというウォンツを構築し、それに応える事が我々の使命です。

 【西田】 私と北海道テレビの藤村さんでやらせていただいている『たまたま』という番組は、はたして、テレ玉に貢献しているのでしょうか。ときどき不安にもなりますが(笑)。

 【遠藤】 どんどんやっていただきたいです。むしろ私たちとしては、西田さんや藤村さんのような他局のスペシャリストの方に、番組の実験場として使っていただければいいと思っています。語弊を恐れずに申し上げれば、私たちは「視聴率が低いので、番組を打ち切る」といった概念は希薄です。それ以上に、視聴者へ今までとは違った価値観を提供出来、有る程度の経済的な合理性が保たれ、将来的にノビシロがあるかどうかを重要視します。先ほど申し上げました40%の調達枠は実験場でよいのです。実験が失敗に終わることもあるかもしれませんが、こうした挑戦するリスクを課すことで、将来の成功という果実を得るためのノビシロを得るものと考えるようにしています。

 【西田】 我々番組制作者にとって、ワクワクするような話です。今、テレビの制作現場でどんどん「実験」の感覚はなくなっています。深夜でさえもそうですからね。

 【遠藤】 テレビ番組って、もっとエゴイスティックな番組があってもいいと思います。私にとっての理想の番組は、フジテレビで放送していたF1中継です。最初に、F1を見たとき、古館さんや今宮さんが話している単語が、専門用語過ぎて何一つ解からず、知らない外国語を聞いている感覚でした。視聴者に、まったく媚びていない、というより完全に置いてけぼりですよ。「見たかったら自分でちゃんと勉強してから見てね」と感じました。だから、夢中になって見ました。そういうエゴイスティックな番組、「あなたは知らないかもしれないけれど、興味を持ってくれれば、きっと楽しいよ。そのためには少しだけ興味を持ってね」と問いかているような番組が、私は一番好きなんです。

 【西田】 そもそも、遠藤さんはなぜテレ玉に入社したんですか。

 【遠藤】 私はテレ玉に入社する前に京都の会社に勤めていました。私は、埼玉で生まれ育った人間ですが、京都の人たちの地元意識の高さにびっくりしました。みんな、京都とはこういう場所だってわかっていて、京都のことが大好きで、誇りをもっている。それに比べて、当時の埼玉の人は流入人口が多いせいか、地元意識が低かった印象がありました。「自分の県が好きですか」という1980年代の全国調査で、埼玉県は最下位でしたから。なので、私はテレビを通じて「埼玉が好き」という人を1人でも多く増やしたいと思いました。この思いは、入社以来今までずっと変わってないですね。

 【西田】 本日は、お忙しいなか興味深いお話をいただき、ありがとうございました。

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